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“日本の夏の通勤地獄”を変えた《関西私鉄戦争》 冷房車導入への“昭和なハードル”と庶民には異次元な「超ぜいたく列車」とは

すし詰めの車内に乗客を押し込む国鉄職員=国鉄新宿駅(1967年12月、時事通信フォト)

すし詰めの車内に乗客を押し込む国鉄職員=国鉄新宿駅(1967年12月、時事通信フォト)

 関西圏の発展に貢献してきた阪急、阪神、京阪、南海、近鉄の五大私鉄。各社は熾烈なスピード争いを繰り広げてきたが、速度だけの勝負では限界がやってきた。そこで、各社は速さではなく、サービス内容で競う方向へと舵を切った。この争いによる「アイディア」勝負が、関西私鉄から数々の“日本初・日本一”を生み出すことになった。

 大阪出身の元全国紙新聞記者・松本泉氏が、関西五大私鉄の歴史を綴った『関西人はなぜ「○○電車」というのか─関西鉄道百年史─』(淡交社)より、関西私鉄から生まれた日本初・日本一をお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全5回の第3回。第2回を読む】

 * * *
 平成時代に生まれ育った人には想像もできないだろうが、昭和時代の夏の通勤電車は“地獄”だった。

 乗車率200%を超えて身動きが取れない車内に、冷房などなかった。天井の扇風機は熱気をかき回すだけ。窓から入ってくる風も熱気を巻き上げるだけ。

 それでもバタバタと人が倒れることはなかったから、昭和の通勤客は頑丈だった。

 当時、南海は阪和電鉄と熾烈な競争を繰り広げていた。阪和電鉄を出し抜くための話題作りの一つだったことは確かだ。

 日本で初めての「涼しくて快適な冷房車」は、激しい私鉄間の競争が生み出した。

 しかし、戦中から戦後の長い間、冷房車の普及はなかなか進まなかった。話題作りにはなっても、本格的なサービスには至らなかった。

“冷房”競争の先頭を走ったのは阪神だった。

 阪神は1970(昭和45)年から冷房車の導入を始めた。阪神以外の私鉄でも冷房車を導入し始めたが、当時はまだ冷房装置は高価なうえに、莫大な電力を消費するのがネックだった。

 そんな中で、阪神は1983(昭和58)年に全国の私鉄で初めて、全車両の冷房化を実現した。

「阪神は“待たずに乗れる冷房車”。阪急では涼しい電車を待たなあきません」と宣伝したとか、しなかったとか。

 一方で、冷房を効かせてただただ冷やせばいいというわけではなかった。「冷房が効き過ぎて体が冷える」という乗客のために、日本で初めて「弱冷房車」を考え出したのは京阪だった。1984(昭和59)年に導入した弱冷房車は、あっという間に全国に広がった。

 関西の私鉄の「派手な競争」の陰には、こんなこまやかな心遣いがたくさんあった。

日本で最も長く走ったテレビカー(京阪)

 戦後、最も失意に沈んだのは京阪だった。

 戦前の京阪は、飛ぶ鳥を落とす勢いで“京阪王国”の建設に向けて爆進した。

 ところが……。

 特急「燕」を追い抜いて話題になった新京阪線(大阪・天神橋‐京都・大宮)を阪急に持っていかれた。

 名古屋と京都を結ぶ「直通特急」計画が頓挫した。

 阪神電鉄との合併話は幻になってしまった。

 経営参加していた阪和電鉄(大阪‐和歌山)を南海に持っていかれた。

 奈良電気鉄道(京都‐奈良)をめぐる近鉄との買収合戦に敗れた。

 2府6県にまたがる“京阪王国”の野望は夢と消え、残ったのは京阪本線と京都‐大津を結ぶローカル線だけだった。

 カーブの多い京阪本線は、スピード競争では阪急や国鉄に勝てない。利便性と快適性、そして京都ブランドを最大限に利用して新たな戦いに挑んだ。

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