物件所有者が貸し出しを止めるケースもある
「事故物件」──前居住者の不自然な死や、特殊清掃が必要になった死亡事故などが発生した賃貸物件は、賃貸不動産管理業界において珍しくない。その判断基準は明確には定められていないが、なかには死亡事故以外の“特殊な事案”により、物件の所有者が自主的に貸し出しを止めるケースもあるという。
そうした“いわくつき”の物件を多数見てきたのは、賃貸不動産管理会社に15年間勤務した児玉和俊氏。著書『告知事項あり。その事故物件で起きること』(イマジカインフォス)では驚くべき実体験を綴っている。本記事では4階建マンションのオーナー・石嶺さんが所有する物件の地下室に、犬専門のブリーダーが入居した時の“ある事件”を振り返る。
起業して奮闘していたブリーダーだったが、徐々に家賃を滞納するように。滞納が3か月を超えると、訴訟を見越した督促をしなくてはならない。連絡すると滞納の3か月分を約束通り払ってくれ、次の3か月間も問題はなかった。しかしその裏で部屋に起きていた「異変」とは──。同書より一部抜粋してお届けする。【前後編の前編】
* * *
しかし4か月目。状況が一変します。また滞納が始まったのです。そして最悪なことにブリーダーさんとの連絡が一切取れなくなりました。嫌な予感がします。私は物件の地下室に向かう途中で石嶺さんと合流します。
「いつから連絡が取れなくなったの?」
石嶺さんからの質問です。
「ブリーダーさんに連絡がつかないことがわかったのは今日です。連絡自体ここ数か月間取っていません。家賃も普通に振り込まれていたので。久しぶりに今月分の振り込みがなく滞納が始まってしまったので連絡したところ、電話がつながらないことがわかりました」
「ブリーダーの関連会社や関係者との連絡は」
「全部つながりません。そのため、早急な現場確認が必要となりました」
「そういうことね」
どうやら石嶺さんは状況を正確に把握してくださったようです。現場に到着。インターホンを押しましたが反応がありません。
「電気が止まってるみたいだね」
石嶺さんが言います。確かに電気が通っていないようです。
「ブリーダーさん。いますか? ブリーダーさん……」
ドンドンとドアを叩きながら呼びますがこの掛け声にも反応はありません。
「扉を開けます」
私は持参した鍵を使用し地下室の扉を開けました。そしてその扉の先では信じられない惨状が広がっていたのです。