今年7月6日に90歳を迎えるダライ・ラマ氏
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世(以下、ダライ・ラマ)の新著が今年3月に出版されることになった。今年7月6日に90歳を迎えるダライ・ラマは新著の中で、1956年のチベットのラサからの命がけの脱出劇や、その後の中国指導者との協議や交渉を振り返るとともに、「死ぬ前に少なくとも1度は中国に戻りたいと思っていたが、その可能性はますます低くなっているようだ」と記しており、存命中の中国との和解は不可能に近いとみているようだ。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じた。
新著の書名は『声なき者のためへの声 わが国土と国民のための70年以上に及ぶ中国との闘争』(Voice for the Voiceless: Over Seven Decades of Struggle With China for My Land and My People)で、3月11日に米国のハーパー・コリンズ出版社から出版され、すでにオーストラリア、カナダ、ドイツ、イタリア、フランス、オランダ、ブラジルでも発売されることが決まっている。
ダライ・ラマはチベット仏教やチベットの文化などに関して数十冊の本を出版しているが、今回の新著は3冊目の自伝で、とくにダライ・ラマがこれまで相対してきた毛沢東や周恩来、胡耀邦、趙紫陽、胡錦濤、習近平ら中国の最高指導者とのチベットに関する交渉や論争、政治的な動きなどを中心に詳しく描いた初めての書となるという。
ダライ・ラマは中華人民共和国成立後、毛沢東、周恩来と親密な関係を保ったが、1959年、ダライ・ラマが16歳の時、中国人民解放軍がチベット族の居住区であるチベット(現在のチベット自治区)を武力制圧したことで、少数の側近とともにインドに逃れた後、これまで亡命生活を続けている。
新著では1949年からこれまで70年以上に及ぶ中国共産党政権とのチベットめぐる交渉や論争などを初めて詳しく書き表している。とくに、現在の最高指導者である習近平国家主席や党・政府高官はダライ・ラマやチベット仏教には極めて否定的な姿勢であったなど、交渉の過程での生々しいやり取りが記述されているという。
ダライ・ラマは今後、チベット仏教の高僧らと後継者問題を本格的に協議する予定だが、これまでの経緯から、中国共産党指導部はダライ・ラマの後継者を拒否するとみられており、今後も両者の対立は深まりそうだ。