元花魁で老舗女郎屋「松葉屋」の女将・いね役を演じる水野美紀(左)/大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合日曜夜8時放送中)より
大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』には、煌びやかな花魁、女郎屋を仕切る女将、身体を壊した下層の女郎など様々な女性が登場する。
その中でも、水野美紀が演じるのは元花魁で老舗女郎屋「松葉屋」の女将・いね役だ。女郎屋は“忘八”として描かれるが、いねは女郎の苦楽を知り尽くした立場から現役たちを支える。水野が『べらぼう』の撮影を振り返る。
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いねを演じるにあたり、「かなり早口で金に細かい女将」だと説明を受けました。いねのせっかちな性分を表現するために早口で抑揚をあまりつけず、言葉をポンポン投げ渡すようなしゃべり方を心がけています。
口調や淡々と切り盛りする姿から冷たい人にも見えますが、もとは花魁で吉原を熟知している女性です。松葉屋の女郎を見守り、幸せを願っている。金に細かいのも松葉屋を繁盛させて彼女たちにお腹いっぱいおまんまを食わせるための、いねの愛情表現なんです。
放送が始まって女郎屋の女将に眉毛がないと話題になりましたが、眉毛のあるなしで顔の印象ってすごく変わりますね。あれは特殊メイクなんです。完成まで30~40分かかって、いね役に入るスイッチになっています。
眉毛には人格が現われるので、隠れると無表情に見えがち。さらに特殊メイクをするとおでこが動かしづらくなるので、どうにかおでこを動かして目で感情を伝えられるよう、意識しています。
歴史ある大河ドラマとなると身構えるものですが、監督やスタッフの皆さんは遊び心があって懐が深いんです。キャストのアイディアも受け入れてくださり、第1回で蔦重が長谷川平蔵に「駿河屋でございます」と見得を切る場面は横浜流星さんのアドリブです。
そこでいねが「いよぉっ!」と反応するのは半左衛門役の正名僕蔵さんが始めたアドリブ。いねのほうが面白いと私が言うことになりました。そんな風に脚本から膨らんでいく作業もあって刺激的です。
劇中で蔦重はよく言葉遊びをしますが、現場でも蔦重の「ありがた山」が流行っています。差し入れがあると皆さん、「ありがた山です!」と言いながら食べたりして(笑)、私も使っています。
【プロフィール】
水野美紀(みずの・みき)/三重県出身。主な出演作にドラマ「踊る大捜査線」シリーズ、「探偵が早すぎる」、連続テレビ小説『スカーレット』など。今年5月上演の舞台「ケムリ研究室no.4『ベイジルタウンの女神』」(東京・世田谷パブリックシアター)に出演予定。
取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号