「あえ」とはおもてなしのこと。能登復興に印税を寄付する豪華執筆陣
2025年が明けて約2か月。春の兆しが届いてくるこの季節だからこそ、読書をして心も温めてはいかがでしょうか? おすすめの新刊4冊を紹介します。
『あえのがたり』加藤シゲアキ、小川哲、今村翔吾ほか/講談社/2200円
上記の三著者がこの企画の発案陣。彼らの提案に朝井リョウ、今村昌弘、蝉谷めぐ実、荒木あかね、麻布競馬場、柚木麻子、佐藤究と、今最も読みたい精鋭達が加わり10の物語の花が咲く。バースデイケーキの注文主を当てる日常の謎、輪島弁柄漆でできた東大赤門の由来を姫君の視点から語る時代小説、人新世に見合った生物が出現する近未来ホラーなどどれも“あ~面白かった”。
このタイトルでも人品が落ちない。さすが佐藤愛子さんと笑いがこみ上げる
『老いはヤケクソ』佐藤愛子/リベラル社/1540円
前半は、昨年100歳だった愛子先生に「百嫗」の心境を聞くインタビュー。後半は、両親、兄、二人の元夫、遠藤周作や北杜夫、川上宗薫など心から打ち解けた男友達との交流エッセイなどを再録する。愚痴や姑の悪口を書いた娘の手紙を面白がり「あの子には文才がある」と見抜いた父上(佐藤紅緑)の慧眼。それを闇夜の灯火にして歩いた作家の道のりに、改めて心打たれる。
母国語にはない表現を知る。その面白さにヌマ(沼)った人々
『日本語教師、外国人に日本語を学ぶ』北村浩子/小学館新書/1056円
日本語を巧みに話す外国人は母国語と日本語の二つの部屋を持ち、開け閉めしているのだと思っていた。驚くことにそうではなく、人格(性格)を増やしているみたいなのだ。感情の表出は「日本語でやると自然」(ウクライナ出身の声優)、感動表現は「日本語だと断然言いやすい」(フィンランド大使館勤務の女性)。外国語修得のコツは、不屈の好奇心と自分増やしの喜びにあるのかも。
自称「鬼出不精」の著者が、泡立つ記憶の海に漂った名随筆
『死ぬまでに行きたい海』岸本佐知子/新潮文庫/935円
翻訳家の著者は雑誌の連載を頼まれ、「どこかに出かけて見聞きしたままを書きたい」と出不精の自分に訣別宣言をする。このエッセイはその記録で、新卒で勤めた会社のある赤坂、自然豊かな父の故郷・丹波篠山、毎年酒合宿を開く三崎など、人と土地の記憶の海で揺れる灯りがとても繊細。題名は昔取材で自分が語った言葉。でもそれがどこなのか今も思い出せないのだとか。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年3月6日号