AIならぬNI(ネイチャーインテリジェンス)。大自然の知的ネットワークって本当にありそう
いよいよ春も近づき、気がついたら外は花粉だらけ。こんな季節は、部屋の中で花粉を避けつつ、読書でもしてみたら? おすすめの新刊4冊を紹介する。
『楽園の楽園』伊坂幸太郎/中央公論新社/1650円
アダムとイブの逸話からある登場人物が「税金だとか年金を納めるのだって精一杯なのに、さらに原罪まで背負わされているなんて、がっくり来ちゃうよね」と愚痴るシーンに笑う。著者らしいユーモアと軽口が光る大人の絵本。西遊記を思わせる五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗が(天竺ではなく)人工知能「天軸」のある場所を目指す。大自然への畏怖が終末感を和らげ、読後感はいい。
台所は「楽屋に似ている」「素敵でなくていい。自分が心地よければ」(本文より)
『ふたたび歩き出すとき 東京の台所』大平一枝/毎日新聞出版/1870円
お洒落な台所ではない。でもその空間を使う人々の話の味わい深いこと。在宅の娘(不登校)のために3食作る会社員寡夫、パートナーを得て働き方を変える宣言を上司にした霞が関の女性官僚、新宿の高度小児医療施設近くの一室で、看病中の親を癒す料理教室を開くボランティア女性(弁当も配達)。辛くてもやりきれなくても人は食事をする。台所は明日への種蒔き場だと思う。
MX(マウンティングエクスペリエンス)の提供が、日本経済を救うという提言
『「マウント消費」の経済学』勝木健太/小学館新書/1012円
人は他者と自分を比べる。優越感をくすぐる「マウント消費」が日本経済を救うとする。兆しはある。エリート進学塾、世界中に我が家を持つ不動産ビジネス「NOT A HOTEL」。提言には慶大出身者限定の高級老人ホームや、小学生向け米国トップ大学視察ツアーなどが。村上春樹氏が「洗練された資本主義」と書く時、毒気は伝わってるのかと訝しんでいたが伝わらなくていいのかも。
コロナ禍で生き惑う男女や少年少女。2022年の直木賞受賞作が文庫に
『夜に星を放つ』窪美澄/文春文庫/770円
著者の初期の作品群が柑橘系からほとばしる果汁を思わせたのに対し、デビューから13年、直木賞を受賞した本作は山中の湧き水を思わせる。婚活相手の真意を測りかねる32歳の女性、夏休みに幼馴染みを失恋させ年上の女性に失恋する高校生男子、妻と娘に去られた傷心のサラリーマン、実母と継母という大人の事情をけなげに受け止める小学生男子など、計5話の極上短編集。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年3月13日号