『スターの臨終』/小泉信一・著
【書評】『スターの臨終』/小泉信一・著/新潮新書/1034円
【評者】嵐山光三郎(作家)
小泉信一は「大衆文化担当」の朝日新聞記者で、演歌、プロレス、夜の風俗、ストリップなどに精通している達人。毎晩のように路地裏で飲んだくれ、42歳のとき『東京下町』(創森社)を書いた。私も酒場で二、三回遭ったことがある。渥美清は「板橋のドブで死んでるよ」と言っていた。新宿にある寺の墓石には渥美の名はなく、本名「田所康雄」と刻まれているだけだ。
寅さん映画のマドンナ役をした大原麗子は病魔と闘い、62歳で孤独死した。そのころの芸人は、心の奥に闇をかかえており、ドラマ『太陽にほえろ!』で人気が出た沖雅也(31歳)は西新宿の高層ホテルから身を投げて死んだ。
藤圭子(62歳)も新宿のマンションから飛び降り自殺した。「圭子の夢は夜ひらく」がヒットし、日本レコード大賞を受賞したのが一九七〇年で、「演歌」ではなく「怨歌」と呼ばれていた。
一九八六年四月、アイドル歌手、岡田有希子(18歳)は所属する新宿の音楽事務所七階から飛び降り自殺した。その五日前、私はNHKの番組で新人の岡田さんと出演したばかりだった。
キラキラ光るまぶしいお嬢さまがかかえていた心のマグマ。
町中華のラーメンが好きだった八代亜紀は、ハスキーボイスで「舟唄」を歌った。十六歳でキャバレー勤めをしたことが父親にばれ、頬を叩かれて勘当され、家を出た。ドサ回りの日々、マネージャーに百万円持ち逃げされた。
みなさん、命がけの生涯だった。キャバレー太郎の名で波瀾万丈の人生をおくった福富太郎。ストリップで「どこまで見せるか見せないか」と考えぬき、公然わいせつ罪で起訴された一条さゆり。「金網デスマッチの鬼」として活躍したラッシャー木村。徹頭徹尾、孤独だったプロレスラー、アンドレ・ザ・ジャイアント、など、各界の著名人の臨終が熱く精密に書かれている。生涯一記者の意地を示した著者小泉信一氏は、本書編集作業中(二〇二四年十月)にがんで他界された。
※週刊ポスト2025年3月21日号