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『映画ドラえもん のび太と絵世界物語』制作陣インタビュー

『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』プロデューサーが明かす「王道」を意識した「敵キャラ」の魅力

プロデューサーとして本作のスタッフィングなどに尽力したシンエイ動画の佐藤大真さん

プロデューサーとして本作のスタッフィングなどに尽力したシンエイ動画の佐藤大真さん

 3月7日に公開された『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』の勢いが止まらない。全国週末興行成績ランキング(興行通信社調べ、3月21日~23日)では、前週に続き3週連続で1位を達成。累計観客動員177万人、興行収入21億円を突破している。

 SNSでも「歴代シリーズ最高傑作」「映画ドラでの完成形」などと話題になっている本作は、完全オリジナル脚本による作品。シリーズ45周年に際し、「ドラえもん愛」たっぷりのスタッフによって、藤子・F・不二雄が原作漫画を描いた『映画ドラえもん』の「王道」をめざして制作された。

「ドラえもん愛」と「王道」。2つのキーワードを軸に、重要な役割を果たしたスタッフ4人にインタビューを敢行。最後となる4人目はドラえもん好きのスタッフを幅広く集めたプロデューサーの佐藤大真さんに、「ドラえもん」の魅力や制作秘話を聞いた。【全4回の第4回】

※本稿は『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』の一部展開に触れています。ご理解のうえ、お読みください。

アニメ『ドラえもん』の仕事がしたい!

──佐藤さんの「ドラえもん愛」を教えてください。
 
『映画ドラえもん』は保育園に通っていたころに『のび太のパラレル西遊記』や『のび太の日本誕生』あたりから観はじめ、それからテレビアニメとあわせてずっと楽しんできました。園や学校から帰ってくると、きまって「ドラえもん」の絵を描きつづける、そんな子どもでした。

 マイベスト映画は、1992年公開の『のび太と雲の王国』です。子どもの時は完全には理解できないながらも、ドラえもんたちが「株式」について話すシーンが好きでした。ひと株100円という決まりなのに、ジャイアンが50円で半株を要求するルール度外視なところが印象的で(笑)。短編まんがに出てくるキー坊が、植物星の大使になって帰ってきて、ドラえもんをさんづけで呼ぶのも衝撃的でしたね。

 あと、のび太が食べていたスパゲッティがめちゃくちゃおいしそうで。『映画ドラえもん』といえば食事のシーンにも魅力があるので、『のび太の絵世界物語』も中世ヨーロッパの食事について調べるなど、細部にまでこだわりました。

『ドラえもん』が大好きなまま大学に進学し、いざ就職活動を始めたら、自分が本当にやりたい仕事は「アニメーション」だと気づきました。根本には『ドラえもん』のアニメを作りたいという思いがずっとあったので。

 それで専門学校に入り直し、アニメの基礎知識から学びました。そしてシンエイ動画を受けたのですが、落ちてしまって……。もしかしたら面接の時に「ドラえもん」についてあまりにも語りすぎたのが原因かもしれませんね(笑)。

 その後、別の会社に就職して2年ほど働いた後、もう一度シンエイ動画を受け、なんとか採用していただき今に至ります。

佐藤さんが子どものころに投稿したイラストと、掲載誌の『てれびくん』1992年4月号。好きな作品にあげた『のび太と雲の王国』の記事も載っていた

佐藤さんが子どものころに投稿したイラストと、掲載誌の『てれびくん』1992年4月号。好きな作品にあげた『のび太と雲の王国』の記事も載っていた

熱意あふれるスタッフと海外ロケへ

──藤子・F・不二雄先生の「王道」への原点回帰を目指されたそうですが、どのように向き合って制作されましたか?

 シリーズ45周年記念作の本作は例年以上に「映画ドラえもんといえばこれ!」という熱意あるスタッフを集める必要がありました。そのうえで世代の偏りが出ないように、20代半ばの若手から70代のベテランまで幅広いスタッフ構成にできたと思います。それぞれが映画ドラえもんの王道を「これでもか!」と表現してくださり、非常に活気にあふれる制作現場でした。

 メインスタッフでは、まずは要となる寺本幸代監督。「王道」というテーマにおいて、過去に『映画ドラえもん』を3作監督されていて、『ドラえもん』をはじめ子ども向けアニメのことをよくわかっている方なので、安心して4度目の登板をお願いしました。

 脚本の伊藤公志さんは「ドラえもん」に限らず、藤子・F・不二雄先生の作品に深い理解があり、知識が豊富な方です。伊藤さんが腰のすわった脚本を書いてくださったことは非常に大きいと思っています。

 美術監督の友澤優帆さんはコミックス・ウェーブ・フィルム所属の方です。初対面の時、髪色がドラえもんブルーで、身に着けているものもドラえもんで(笑)。本当に好きなことが伝わってきました。背景美術は今作では重要な役割がありますが、思い切って抜擢してみてはどうか、寺本監督に提案しました。

 主なスタッフが決まってから、今作の舞台にイメージが近いイタリアへロケに行きました。メンバーは寺本監督、キャラクターデザインの山下晃さん、美術監督の友澤さんなど総勢10数名。1週間ほどかけて南から北上しました。

 最初に訪れたのは「カステル・デル・モンテ」というお城。6月で気温が30度を超えていましたが、お城の中に入ると、肌寒いくらい涼しかったのが印象的でした。劇中では「水ビル建築機」で作る「水の砦」のモデルにしています。

「チヴィタ・ディ・バニョレージョ」という村も忘れられません。長い橋を歩いて渡っていく陸の孤島なのですが、けっこうな高所で……。でも、なんとか到着すると、日差しが強烈なとてもすてきな村でした。劇中の「アートリア公国の城下町」は、まさにここのイメージです。色彩も本当にきれいでした。

カステル・デル・モンテをモチーフにした「水の砦」。もとは八角形だが、本作ではのび太たちの人数に合わせて五角形に

カステル・デル・モンテをモチーフにした「水の砦」。もとは八角形だが、本作ではのび太たちの人数に合わせて五角形に

イタリアロケで訪れた「チヴィタ」のイメージを湖上に浮かぶアートリア城に取り入れた。長い橋を渡らないとたどり着けない

イタリアロケで訪れた「チヴィタ」のイメージを、湖上に浮かぶアートリア城に取り入れた。長い橋を渡らないとたどり着けない

存在感たっぷりの敵キャラクター

──『のび太の絵世界物語』で、ご自身の「ドラえもん愛」や藤子・F・不二雄先生の「王道」を表現できたと思うシーンはどこですか?

『映画ドラえもん』についてスタッフ間で話していると、決まって話題にあがるのが「敵キャラクター」です。過去シリーズを観かえすと、敵キャラに魅力があるんですよね。

 たとえば、『のび太の日本誕生』のギガゾンビや、『のび太とブリキの迷宮(ラビリンス)』のナポギストラーなど、藤子・F・不二雄先生が描かれた敵キャラの存在感は本当にすごい!

 今作では「イゼール」と「赤き竜」という2パターンの敵キャラが登場します。どちらもキャラクターデザインの山下晃さんがすばらしい仕事をしてくれましたし、アニメーションの動きもかっこいいと思います。過去の敵キャラに並ぶくらい強烈なインパクトを、観てくれた方に残せたらうれしいです。

アートリア公国の伝説の悪魔「イゼール」。驚愕の攻撃方法とは?

アートリア公国の伝説の悪魔「イゼール」。驚愕の攻撃方法とは?

終盤で巨大な「赤き竜」が現れる。のび太たちを絶望の淵に追いやる

物語終盤、巨大な「赤き竜」がのび太たちを絶望の淵に追いやる

自信をもって世に送り出した

──改めて藤子・F・不二雄先生の作品の魅力とは?

 構成力がすごいと思っています。キャラクターも背景もシンプルな線で描かれているからこそ、ストーリーや構成がしっかりしていないと、読んでいてストンと落ちてこない気がします。 

 限られたページの中での藤子・F・不二雄先生の発想力、展開の組み立ては、美しいとしかいいようがありません。「大長編ドラえもん」をはじめ、先生の作品は読みごたえのある作品ばかりだと思っています。
 
 先生の「大長編ドラえもん」から生まれた『映画ドラえもん』の45周年を飾らせていただく『のび太の絵世界物語』は、プロデューサーとして自信を持って世に送り出しました。観ていただいた方のコメントを見たり聞いたりすると、「スタッフの熱意を例年以上に感じた」など本当にありがたいものが多いです。すべてスタッフのみなさん、関係者のみなさんのおかげです。限られた時間の中で苦労の方が多かったと思いますが、全力を尽くしてくれたことに感謝しかありません。

『ドラえもん』のアニメに携わりたくてシンエイ動画に入った佐藤さん。もちろん大の藤子・F・不二雄好きだ

『ドラえもん』のアニメに携わりたくてシンエイ動画に入った佐藤さん。もちろん大の藤子・F・不二雄好きだ

*連載はこれで終わりです。お読みいただき、ありがとうございました。

【プロフィール】
佐藤大真(さとう・ひろまさ)/1985年生まれ、新潟県出身。アニメプロデューサー。大学卒業後にアニメーションの専門学校に入り直し、アニメ制作会社に就職。制作進行として経験を積んだ後、2012年にシンエイ動画に転職。映画ドラえもんには2013年の『のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)』から制作進行補佐として関わり、制作進行、制作デスク、プロデューサーアシスタントを経て、2020年の『のび太の新恐竜』以降プロデューサーを務める。

©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2025

取材・文/神谷直己
写真/浅沼敦

▶第1回・寺本幸代監督のインタビューを読む

▶第2回・脚本の伊藤公志さんのインタビューを読む

▶第3回・美術監督の友澤優帆さんのインタビューを読む

口コミで絶賛の嵐となっている『映画ドラえもん のび太と絵世界物語』

口コミで絶賛の嵐となっている『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』

映画のあらすじ

 数十億円の価値がある絵画が発見されたニュースを横目に、夏休みの宿題である“絵”に取り組むのび太。その前に、突然絵の切れ端が落ちてきた。

 ひみつ道具「はいりこみライト」を使い絵の中に入って探検していると、不思議な少女・クレアと出会う。彼女の頼みを受けて〈アートリア公国〉を目指すドラえもんたちだったが、そこはなんと、ニュースで話題の絵画に描かれた、中世ヨーロッパの世界だった!

 そしてその世界には〈アートリアブルー〉という幻の宝石がどこかに眠っているらしい。絵の中の世界〈アートリア公国〉とは一体……?

 幻の宝石のひみつを探るドラえもんたち。しかし、〈アートリア公国〉に伝わる“世界滅亡”の伝説が蘇えってしまい、大ピンチに!!はたして、のび太たちは伝説を打ち破り、世界を救うことができるのか!?

作品概要

■タイトル:『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』
■原作:藤子・F・不二雄
■監督:寺本幸代
■脚本:伊藤公志
■キャスト:
ドラえもん:水田わさび
のび太:大原めぐみ
しずか:かかずゆみ
ジャイアン:木村昴
スネ夫:関智一
クレア:和多田美咲
マイロ:種﨑敦美
チャイ:久野美咲
パル:鈴鹿央士
アートリア王妃:藤本美貴
アートリア王:伊達みきお(サンドウィッチマン)
評論家:富澤たけし(サンドウィッチマン)
■主題歌:あいみょん「スケッチ」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN) 
■挿入歌:あいみょん「君の夢を聞きながら、僕は笑えるアイデアを!」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
■コピーライト:(C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2025
■公式HP:『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』公式サイト
■公式YouTubeチャンネル: 【公式】ドラえもん / 藤子・F・不二雄チャンネル – YouTube
■公式X: 映画ドラえもん 公式X

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