「生きることは滑稽」「滑稽でいいと思うところまで、書けた気がします」(著者コメントより)
新年度が始まる4月。新たな環境に飛び込んで心労を抱えている人も多いはず。そんな時には、読書でもして気分を変えてみてはいかがだろうか。オススメの新刊4冊を紹介します。
『人生劇場』/桜木紫乃/徳間書店/2310円
製鉄の室蘭、流れ者の多い釧路など、北海道の地誌を土台に男の姿を描くド直球の“男の一生”。昭和13年生まれの新川猛夫は子沢山で家がますます貧困に陥る中、伯母のもとで育つ。職人に憧れ理容師になり、結婚して独立し、妻を殴り、幼馴染みの駒子と情を通じ、一攫千金を夢見てラブホ経営に乗り出す。モデルは著者の実父。昭和の光と影が芝居小屋の灯りのように明滅する。
物わかりのいい両親や可愛い妹が鬱陶しい。中学受験を機に12歳が見つける家族のカタチ
『問題。 以下の文章を読んで、家族の幸せの形を答えなさい』/早見和真/朝日新聞出版/1760円
塾の心友・野口悠と一緒の中学に通いたい。そんな漫然とした目標で塾通いをする小6の長谷川十和。彼女に目標ができる。大阪のおばあちゃんちから大阪の私立中に通うのだ。家族は一緒でなくちゃいけないと父は猛反対するが、ある条件の下、十和の受験勉強を支える。十和や悠がそれぞれ抱えた鬱屈と事情。やっぱり家族は“在る”ものではなく“作る”ものなんですね~。
豆腐、がんも、油揚げ、おから。朝日新聞記者が定年後に咲かせた大豆の夢
『バルセロナで豆腐屋になった ─定年後の「一身二生」奮闘記』/清水建宇/岩波新書/1056円
コロナ禍の頃バルセロナで豆腐を作る日本人がいるとネットで知った。いつかまとめて読めると信じていたが、事業を譲渡して帰国、夫人を看取ったこの時期とは。商売は労働許可やプラのEU基準などやはり大変。結婚するとき夫人の父上が著者に言った。娘は「生きることに蛮勇を振るうことができる子です」。夫人あっての定年後の夢。事業と両輪の夫婦の物語も心に沁みる。
『詩とメルヘン』編集長も務めたやなせ氏。同誌編集者だった梯氏が“詩人”の心根に迫る
『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』/梯久美子/文春文庫/770円
朝ドラ『あんぱん』の主人公のモデル・柳瀬嵩氏は1919年高知県生まれ。図案科で学び、敗戦後は高知新聞に入社。後の夫人・暢さんと出会う。上京後、立川談志、永六輔、向田邦子などと組み、イラスト、舞台装置など多方面で活躍。愛と勇気の『アンパンマン』は1988年にテレビアニメになったことで不滅のキャラクターになった。ひもじさに寄り添った氏の優しさ、忘れません。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年4月17号