サッカー少年、晴斗と修悟の夢は叶うのか。彼らの愛と友情の軌跡がこの物語を牽引する
忙しい新年度の始まりには、息抜きも必要。本の世界に飛び込んで、リフレッシュしてみてはいかがだろうか。オススメの新刊4冊を紹介する。
『ブレイクショットの軌跡』逢坂冬馬/早川書房/2310円
ブレイクショットは四輪駆動車の名前。期間工が組み立てたそれ、富裕層が手放すそれ、実徳な家族を壊すそれ、不動産会社の社用車になるそれ、海外の紛争地で戦闘車になるそれ。車の流転はこうでも、読むべきは流転を加速させる現代資本主義の強欲ぶり。その潮流に乗る人、抗う人。著者の考える現代の論点が1枚のジグソーパズルとして完成。興奮の読書体験を保証します。
トリアージされているのは患者ではなく、不眠不休の医師達かもしれない……
『受け手のいない祈り』朝比奈秋/新潮社/2090円
医師達の限界時間を描く。「二回目の今日」という言葉が衝撃的だ。青年医師公河にとって不眠不休で迎える朝は二回目の今日。大学同期の産科医は過労で死んだ。彼女の化粧した顔をお棺の中で初めて見る。やはり同僚の奥内は言う。「死ぬ前くらい、思う存分寝たい。いっぱい寝てから死にたい」。医師でもある著者にしか書けない小説。現場の切実な声が、小説内に木霊する。
ヒト特有の虚構をつくる能力。科学的な咒が、孤立した人々をまた結ぶ
『咒の脳科学』中野信子/講談社+α新書/990円
見るからに恐ろしげな「咒(まじない)」という字。呪とどう違うのか。咒は行為や手段(例えば祈願もそう)を指し、呪は感情や結果を重視する(相手を害する)ものとか。前半では現代の有害な風潮を呪いとして論じ、後半では美醜に囚われた人間の脳を解説、ユートピア社会の陥穽も明らかにして「科学に根差した新しい咒を社会にかけよう」と誘う。咒にポジティブなイメージが湧いてくる。
4月25日、映画が公開に。文庫には主演の萩原利久と河合優実の特別対談も
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』福徳秀介/小学館文庫/770円
ジャルジャル福徳さんの初小説。他人の視線を遮るために日傘をさす大学2年生の小西徹。彼は頭にお団子を結った桜田花に恋をする。唯一の友人山根のひょうきんさ、銭湯掃除のバイト仲間さっちゃんの純な心根、祖母の「今日の空が一番好き」という信条。不慮の死もありながら、早世した花の亡父がラストシーンで大トリを取り、笑いと涙のシャワーを降らせる。映画も楽しみ。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年4月24日号