『国家の総力』(兼原信克、高見澤將林・編/新潮新書/2024年6月刊)
今年は、昭和元年から数えてちょうど100年の節目。つまり「昭和100年」にあたる。戦争と敗戦、そして奇跡の高度経済成長へと、「昭和」はまさに激動の時代であった。『週刊ポスト』書評欄の選者が推す、節目の年に読みたい1冊、読むべき1冊とは? 富士通フューチャースタディーズ・センター特別顧問の山内昌之氏が取り上げたのは、『国家の総力』(兼原信克、高見澤將林・編/新潮新書/1012円 2024年6月刊)だ。
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「総力安全保障」とは編者のうち高見澤氏が付けた名称であり、「21世紀の総力戦」とは兼原氏による命名である。それぞれ、日本の防衛と外交に責任を負った著名な官僚経験者であり、教養と構想力が非凡な人物としても知られる。
二人は他分野の官僚OBを招いて国家と国民の防衛について縦横無尽に議論した。扱うのは、エネルギーと食料安保、シーレーンの防衛、特定公共施設と通信、貿易と金融である。99.6%の物資が海を通って日本に入ってくるので、シーレーンが封鎖されると、日本の物流はストップする。この場合、民間人の自衛隊への協力は当然必要となるが、国内法の理屈だけで有事を乗り切れると考える人は、中国の繰り広げる「宣伝戦」に乗せられないことだ。
有事対応で重要なのは、港湾や空港の確保である。有事になっても、国交省の管制官はF-35Bの誘導をできる。しかし、港湾の荷役となると専門の業者と契約しておかないとむずかしい。管理者でいえば、港湾は地方自治体責任者、主要空港20ほどは国の管理ながら、それ以外の空港は地方に属する。先島諸島の空港はすべて沖縄県知事の管理下にある。
編者たちは、労働組合の方は大丈夫なのか、といかにも日本らしい心配もする。管制官の組合は、自衛隊と一緒に訓練することにも反対しないらしい。他方、まだ革新華やかりし昭和の気風が残る地方も多い。これらの港湾や空港は、有事になると心配である。
台湾有事になれば、周辺空域は完全に戦闘区域になるので、自衛隊の緊急発進も頻繁に起こる。普段はスクランブルも国交省側管制官の指示に従うが、どういうルールで航空管制をするのかどうもはっきりしないらしい。
陸自の戦車はウィンカーを付けた世界でも珍しい戦車である。道交法に忠実だからだ。戦場に出る時は光らないようにカバーをかける平和主義の戦車なのだ。平時の移動では重量制限に抵触しないのか。日本ならではの難問珍問奇問に向かい合う霞が関の頭脳たちも大変なのだ。
※週刊ポスト2025年4月18・25日号