ピーター・ナバロ大統領上級顧問の動向にも注目が集まる(Getty Images)
アメリカのトランプ大統領の貿易戦争に最も大きな影響を及ぼす男ともいわれるのが、ピーター・ナバロ大統領上級顧問だ。「世界中から略奪されてきた米国が相互関税によって解放される」というトランプ思想に理論的支柱を与えた人物である。
米国政治・外交が専門の前嶋和弘・上智大学総合グローバル学部教授が語る。
「米国は不公平な貿易慣行で世界から出し抜かれている。結果、貿易赤字になり、雇用を奪われた。一番の悪は中国である。だから関税をかけてかつての繁栄を取り戻すのだ──というのがカリフォルニア大学アーバイン校の教授だったナバロの考え方です。トランプにすれば、学者の肩書きを持つナバロが自分と同じ主張をし、その根拠、理由を説明することができた。そこからアドバイザー役に抜擢したわけです」
トランプ氏はナバロ氏の共著『Death by China(中国による死)』を好きな本の一冊に挙げ、ドキュメンタリーとして映像化されると、「必ず見るべき」と推奨した。
これまでトランプ氏のブレーンは途中で役割を外された者が多い。第1次、第2次政権ともに重要な役割を与えられているのはナバロ氏くらいだ。「忠誠心が高い」と前嶋氏が続ける。
「象徴的なのは2021年にトランプ支持者が起こした連邦議会襲撃事件の対応でしょう。ナバロ氏は調査のために下院特別委員会に召喚されたが、それに応じず、宣誓証言や資料提出も拒否した。その結果、有罪判決を受けて禁固4か月と罰金の刑を受けた。つまり、トランプを信じて“臭い飯”まで食ったわけです」
ナバロ氏はウォール街嫌いとしても知られ、その主張は、中国は不公正な貿易でいまや世界の製造業を支配する存在になったが、それをやらせているのはウォール街だという結論に行き着く。だから、相互関税で世界の株価が乱高下し、ウォール街が慌てふためいても平気なのかもしれない。
「シンプルな陰謀論に聞こえますが、トランプ信者にはかなり支持されています」(同前)
トランプ氏はこの特異なる側近とともに、世界をどこに導いていくのか。
※週刊ポスト2025年5月2日号