石破首相は4月1日の記者会見で「闇バイト」対策に前年度比13億円増の17.3億円で治安強化に取り組むと明らかにした(AFP=時事)
検察官を辞めた人のことを「ヤメ検」と呼ぶように、暴力団を辞めた人のことを「ヤメ暴」と呼ぶ。反社会的な生き方から抜け出したはずが、ヤメ暴であるがゆえに、犯罪のターゲットとなる理由になる界隈がある。ライターの宮添優氏が、闇バイト強盗のターゲットとして「ヤクザの家」、正確には元ヤクザ、ヤメ暴の家が狙われる理由についてレポートする。
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2025年1月、佐賀県唐津市の民家に塗装業者を装って強盗に入った事件で逮捕された男(20才)の初公判が4月14日に開かれた。男は、室内にいた女性(60代)をガムテープで拘束するなどして脅迫し、現金約500万円と財布を奪い取ったことを認めている。検察の冒頭陳述によると、男は「(指示役から)相手はヤクザの家、最低でも1億はある」などと言われて犯行に及び報酬を受け取っていたという。闇バイト強盗のターゲットというと、裕福な独居老人の自宅や、高級品を扱っているのに警戒が手薄な店舗などが選ばれてきていたように思うが、いま、ヤクザの家であることも狙われる理由になっているという。
強盗をやるのも反社、被害に遭うのも反社
「あそこの家の人が”ヤクザさん”て言うても、もう何十年も前の話。もちろん、近所中みんな知っとる話です。まさか、このタイミングで狙われるなんてねえ」
こう話すのは、唐津市内の被害宅近くで生まれ育った男性(80代)。被害者宅の関係者に、かつて確かに地域で有名な「暴力団関係者」が住んでいた記憶はあるものの、世間が想像するような「現役バリバリのヤクザ」ではないと首をかしげる。一方、この数年で「いつの間にか被害者宅に防犯カメラがついていた」ともいい「室内に500万もあった」という報道を見て、妙に納得してしまったとも明かす。これまでとりたてて強調して取り上げられることはなかったが、特殊詐欺や強盗のターゲットが、暴力団関係者などの「反社会勢力」であるパターンは、過去の被害に散見された。大手紙社会部デスクが解説する。
「たとえば、全国で起きた強盗事件、強盗殺人事件のうち、被害宅の関係者にいわゆる”地面師”がいるとか、ネット上の裏カジノの関係者がいる、闇金関係者がいる、という話はありました。しかし、いずれも被害に遭っているのは、そうした人々の家族であり、無関係の人たちが亡くなったり、怪我をしているのです」(大手紙社会部デスク)
全国で一般市民をターゲットにした特殊詐欺事件が相次いだころ、警察当局やマスコミによる、繰り返しの注意喚起が功を奏し、反社勢力が一般市民を騙すことが難しくなった。そんなタイミングで起きはじめたのが、まるで共食いのように見える、反社関係者を狙った強盗である。社会部デスクが続ける。