仮に百歩譲って「参考資料」として放映するにしても、キャスターは必ず「独裁国家のことですから彼等は本音を語っている可能性はまずありません」などと注意すべきなのである、それをせずに活字よりインパクトの強い映像をタレ流しにするのは情報操作に他ならない。
もちろん実例はこれだけでなく、『筑紫哲也NEWS23』ではことあるごとに「北朝鮮はそんな悪い国ではない」という「情報」をタレ流していた。だからこそ、北朝鮮も認めた日本人拉致という事実が国民の共通認識になるのが遅れに遅れたのだ。こうした情報操作は新聞でも行なわれていた。
たとえば北朝鮮について何か不利な状況が報道されると、それを「埋め合わせるように」翌日の朝日新聞には「電車の中で朝鮮学校の女生徒のチマチョゴリが切られた」という記事が載せられた。それを読んだ日本人の善男善女の中には「右翼ってひどいことするな。やっぱり北朝鮮はかわいそうだ」と思った人も少なからずいただろう。
そういう方々に是非申し上げておきたいのは、こうした一連の事件で私の知る限り「右翼の犯人」が逮捕されたことは一度もない。そして、これは善意に解釈すれば不幸中の幸いなのだが、カミソリで衣服を切られたらケガをする可能性も高いのだが、これも私の知る限りケガをさせられた女生徒も一人もいない。とても不思議な話である。
ジャーナリストなら当然この不思議さに疑問を持ってもおかしくない。フリーの雑誌記者で在日朝鮮人三世のきむ・むい(本名:金武義)は、この問題を取材し真相に迫ろうとしたとき自宅アパートで不可解な死を遂げた。一応、薬物中毒死というのが公式発表である。それ以後この問題を追及しようというジャーナリストも私の知る限りいない。
※週刊ポスト2016年8月5日号