オール巨人は関西の師匠の中でも、特に弟子に厳しいことで知られていた。有吉が車のトランクに師匠の舞台衣装であるスーツを入れる時、急いでいたため放ったことがあった。オール巨人はバックミラー越しにその瞬間を見逃さなかった。堀之内が思い出す。
「すごいプレッシャーを感じながら動いていたので、わからないでもないんですけどね……。有吉は、靴を左右逆に揃えては『足、曲がるわ!』と怒られ、靴ベラを差し出す時に頭の方を突き出しては『お前は俺に靴まではかせてくれるんかい!』と怒られ。あと、いつも師匠のおしぼりを3つぐらいずつ用意していくんですけど、有吉のおしぼりはなぜかいつも臭いんですよ。それでも師匠の気分を毎度、損ねさせていました」
ところが、ミスをしても援軍が現われた。有吉が師匠のスーツをカーブのついたハンガーにかける時、前後を間違えたことがある。つまり、湾曲した部分が胸側に張り出す形になっていた。
オール巨人がそのことを咎めると、相方のオール阪神が割って入った。自分の鳩胸をいじるネタがあったオール阪神はこう言って相方をなだめたという。
「いつも俺が鳩胸のネタをするから、(オール巨人の胸も)鳩胸にさせたかったんやろな」
兄弟子を殴打
自分ばかりが貧乏くじを引かされているような気持ちになった堀之内は、次第に有吉とほとんど口をきかなくなった。そんなある日、事件が起きた。
餃子が売りのチェーン系中華料理店で2人が昼飯を済ませた。昼時でレジが混んでいたため、堀之内は有吉に2人分を一緒に精算してくれるよう頼んだ。無論、あとで払うつもりだった。だが何かを誤解したのか、有吉が露骨に不服そうな表情を浮かべた。堀之内の証言だ。
「有吉が『表へ出ろ』と。人気のないところに連れて行かれて、いきなり殴られて。歯を一本、折られました。なので、僕も殴らせろと言いました。それを師匠に報告したら『2人ともクビや!』って。1週間ぐらい通って、なんとか許してもらいました。有吉はその後、2回ぐらい『クビや!』と言われて、失踪しました。有吉と一緒に過ごしたのは4月から12月、8か月くらいでしたね」
それから3年が経ち、有吉はお笑いコンビ猿岩石の1人として『進め!電波少年』に出演する。ヒッチハイクでユーラシア大陸を横断するという過酷な企画に挑戦し、瞬く間に日本中の注目を集めた。
その放送を見た堀之内は腰が抜けそうになった。
「あれから巨人師匠は僕の前では有吉の名前は口にしなくなりましたね。僕はまだ弟子として、おしぼりを渡したりしていたので、気の毒に思ったのかもしれません」
堀之内は弟子修業を4年で上がり、それからほんの少し漫才師として活動したが、「有吉の売れっ子ぶりに精神が持たない」と廃業を決意。別の道を選んだ。しかし、今も有吉を意識せずにはいられないという。
あるテレビ番組で、有吉が高級腕時計を買っているのを観た。翌日、堀之内は負けじと100万円の腕時計を購入した。
「みんなにアホかって言われましたけど、有吉だって、他人から見たらバカみたいなことにこだわってきたから、今があるはずなんですよ。だから、いつか、僕も……」