大ヒットミュージカル映画『マンマ・ミーア!』で知られるフィリダ・ロイド監督の『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(公開中)で元英国首相マーガレット・サッチャーを、演じ第84回アカデミー賞主演女優賞を受賞したメリル・ストリープ(62)。アメリカ人にしてなぜ、英国初の女性国家元首を演じることになったのか。話し方や歩き方までそっくりに真似をした役作りから、女性としての共感まで、この作品で3つめのオスカーを手にしたハリウッドきっての演技派女優に当サイトが直撃。
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――アカデミー賞主演女優賞受賞、おめでとうございます! 29年ぶり3度目の受賞となりましたね。
メリル:ものすごくハッピーですよ。この年齢なので受賞してももう感動なんかしないと思ったけれど、受賞した瞬間は、頭が真っ白になってとってもエキサイティングだったわ。
――なぜ、このサッチャーを演じようと思ったのですか。
メリル:欧米初の女性首相であるサッチャーには、ずっと興味を持っていたの。私たちの社会は、いまだに女性のリーダーになれていないでしょ。彼女は、その突破口を開いた人。正直、彼女の政治方針には賛同するとはいえませんでしたけどね。
――演じるにあたって苦労したことはなんですか?
メリル:私は、アメリカ人なので、英国人であるサッチャーを演じること自体がチャレンジでしたね。それに、彼女は愛されもしたけど、憎まれもしました。その両方をキャラクターの中で融合させるのが難しかったわ。
――素顔は似ていませんが、映画ではとても特徴をとらえていてよく似せていますね。特殊メイクアップ技術も評価され、アカデミー賞メイクアップ賞も受賞しました。
メリル:撮影前の数か月間、何度も試行錯誤を繰り返したんですよ。人口装具の英国人アーティストのマーク・クーリエと私のメイクを35年間担当してくれているJ・ロイ・ヘランドが協力して、若いころのメイクと老けメイクで私を変身させてくれたの。ひとりの女性として一貫性を持たせるのがとても重要だったわ。特殊メイクの素材はとても繊細なものだったので、自然に演技ができたと思うわ。最初にメイクをして鏡を見たときは、よく知った顔だと思ったの。私の父とサッチャーさんを合わせたような感じでね(笑い)。
――サッチャーの魅力はなんだと思いますか。
メリル:首相になり権力を持っても、女性らしさを失わなかったことね。政治という男社会で生きるとき、おそらく女性らしさを捨てたほうが楽だったはず。けれど、彼女は、ハンドバックや華やかなブラウスを着たりして、いつも女らしく装っていたんです。実際に、彼女の引退後、訪米したときに講演を聞きにいきましたけど、とても美しい女性でしたよ。もっと野暮ったい人だと思い込んでいたから、驚いたくらい。でも、涙とか、女っぽい弱さは決して許さない人だったから、おそらく“鉄の女”と呼ばれたのね。
――映画中、演説や発言に説得力を持たせるために、低い声で話すスピーチの訓練をするシーンがありますね。
メリル:ある種の威厳を表現して、評価されたかったからじゃないかしら。女性が甲高い声で大声で話しても、男性のような厳粛さは感じられませんからね(笑い)。
――実在の人物、しかもとても有名な人物を演じる上で、プレッシャーは感じませんでしたか。
メリル:責任は感じましたね。実在の人物を演じるときには、正確に真実に近い役作りをする必要があると思っています。一方で、単なる伝記映画ではなく、観た人が彼女の人生に自分を重ね合わせられるように演じたいとも思いました。つまり、成功した政治家ではなく、ひとりの女性としてのサッチャーを演じたかったのです。
取材・文■立田敦子
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
“鉄の女”のニックネームにふさわしく、強く、厳しいリーダーといわれる元英国首相マーガレット・サッチャー。フォークランド紛争での勝利、労働組合制度の改革、低迷する経済の立て直し、3度の総選挙を乗り切り、一時は73%の支持率を誇り、英国の、いや世界の歴史に名を残したリーダーだ。そんな彼女にも、妻、そして母としての顔があり、老いが訪れていた――認知症を患い、時には夫がすでに他界したことも忘れるようになった晩年、サッチャーは自分の過去を振り返る。TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー。