東南アジアで唯一、海のないラオスの風景は、山と田畑ばかりだ。日本の本州と同等の面積にもかかわらず、人口が約650万人と少ないため、国道を走っていても滅多に集落を目にすることがない。
ミャンマー、中国と接する北部の県、ルアンナムターの中心部から、中国国境へ向けて車で1時間。急に目の前が開けたかと思うと、ピンクや黄色などパステルカラーの建物群が目に飛び込んで来た。
「磨丁黄金城」。2004年11月に建設が始まったこの街は、ラオス政府の肝いりでスタートした経済特区だ。しかし内実は、中国資本に開発を丸投げ。2億ドル近くつぎ込んで出現したのが、大小10以上のホテル、カジノが建ち並ぶ、「ボーテン・ゴールデン・シティ」という名の不夜城だった。カジノを訪れたことがある現地のラオス人男性はこう語る。
「カジノで遊んでいるのは、ほとんど中国人でした。メインのカジノ場では、中国人の高級娼婦が名刺を配って歩いていて、気に入った娘がいると上の階のホテルに行く仕組みでした。3階はVIPルームになっていて、中に入るとアヘンの匂いが立ちこめていました」
国内ではカジノが許されていない中国人のために、中国資本が隣国ラオスに創り出した夢のカジノ。それがゴールデン・シティなのだ。
しかし、ここが犯罪の街になるのに時間はかからなかった。カジノで身ぐるみはがされる人が続出し、殺人事件が多発した。事を重く見た政府は、とうとう2010年末、カジノをクローズさせた。1万人以上の中国人が暮らしていた夢の街は、瞬く間にゴーストタウンとなってしまったのだ。
現在は、20数件の雑貨店や飲食店が街の片隅に軒を並べている。全員が中国人で壁の時計は中国時間に合わされている。中国が強引に創り出そうとした夢の街のなれの果てだった。
ボーテンから車で10分ほど離れた国道沿いに、かつてこの地に住んでいた少数民族の村があった。
「2000ドルやるから出て行けといわれました。逆らうことはできません。それまでは田畑の恵みで生きていましたが、今あるのは家だけ。荷物の積み降ろしで家族6人を養っています。この先? あるのは不安だけです」(66歳のルー族男性)
撮影■太田真三
※週刊ポスト2012年11月23日号