全国の角打ちファンの間で、伝説の店として語り継がれている大分市の『御手洗(みたらい)酒店』。彼らが思い入れたっぷりに語るところによると、伝説になった主な理由は、どうやらジャズのようだ。
現在は神戸在住だが、故郷に帰ったときは必ずこの店に寄り長時間過ごすという50代のサラリーマンが、PRディレクターよろしく誘ってくれた。
「えっ、角打ちにジャズ? と思いますよね。2000枚は軽く超える数のジャズやクラシックのLPレコードが収納された棚。マニアだったら思わずにっこりしてしまうタンノイ、JBL、クォードといったオーディオの名器やピアノが並ぶフロア。だけど、ここは酒屋の店内。ジャズって角打ちの最高の肴になるんですよ。粋だし乙だしと悦に入ってるのは、私だけじゃありませんから」
ここでおかみさんの、御手洗光江さん(73)が登場する。4年半前に72歳で鬼籍に入ってしまった2代目主人・庸夫(つねお)さんを思い浮かべながらの、たおやかな笑顔と語りだ。
「お父さん(庸夫さん)は、カメラとか手作り凧とかものすごく多趣味な人で、ジャズもオーディオもみんなが大好きだったものなんです。噂を聞いて、山下洋輔さん、坂田明さんなどたくさんのジャズミュージシャンの方々も訪ねてくださったし、何度もライブをやりましたねえ」