九州最大の繁華街、福岡・天神の南側に位置する閑静な住宅街、薬院。ここにサラリーマンたちの胸をキュンと締めつけている角打ちの店『こば酒店』がある。
「この福岡で禄をはむ生業のわれわれにとってこの店は、学生街に昔からある定食屋みたいな存在ですね。当時からは、食べることから飲むことに目的は変わりましたが、暖かいものにくるまれる安心感はまったく同じもの。この感じ、わかってもらえますか」(50代)
「私はねえ、同僚が思ってるほど飲んべえじゃないし、グルメでもないんです。でもこの店で飲むとお酒がうまいんだ。つまみをいろいろ食べたくなっちゃうんだ。もう、ここを知ってしまったおかげで、この店のない世界には住めませんよ」(30代)
店に居合わせた人々が、競うようにしてそんな話しをしてくれる。
われわれがこの店の噂を耳にして、初めて訪ねようとした日、最寄り駅の西鉄天神大牟田線・薬院駅近くの商店主にその店までのルートを教わったときのことだ。
「薬院六つ角という交差点に出る手前にありますよ。あそこはお客さんがしょっちゅう出入りしているし、店のあたりが、とってもエネルギッシュな空気になっているんで、すぐにわかりますって」
そんな答えが返ってきた。まさにその証言どおりで、いつ行っても明るい熱気が店の外にまでこぼれ出ているのだ。