東洋医学では「春は肝の季節」といわれる。冬の間、停滞していた体は春になって目覚め、細胞の生まれ変わりが活発になる。そのときに活躍するのが「肝」である、という考え方だ。
しかしこの時期、活躍してくれるはずの肝臓にトラブルが多発している。日本人間ドック協会によると、2011年に人間ドックを受診した約313万人について、「異常なし」の人の割合は、過去最低の7.8%。また、生活習慣病に関係する項目で、最も多いのが「肝機能異常」の33.3%。異常がある人の3人に1人が、肝臓に問題を抱えていることになる。
肝機能の状態を示す指標には、ALT、AST、ガンマGTPの3つがある。これらが異常を示すとはどういう状態か、大阪市立大学大学院医学研究科の河田則文教授に解説してもらった。
「ALT値が高め(要注意以上)になった場合、組織を検査すると、肝細胞に壊死が見られ、炎症性細胞浸潤があります。また、脂肪肝の場合は、肝細胞が風船のようにふくらんでいます。ただし、自覚症状はまったくない。これが、肝機能異常の怖いところです。
肝機能の異常を放置すると、肝臓が変形し、最終的には肝硬変になります。また、肝臓がんを発症することもあります。そこまで放置すれば、命に関わる危険があるのです」
肝機能異常の中で、とくに増えているのが『脂肪肝』。
「外食が増えたり、運動不足だったりして肥満になり、それにともなって糖尿病や脂質異常症を発症する人が増えています。その合併症として、肝機能に異常をきたすのです。私たちの調査では、50~60代の中高年女性に圧倒的に多く、脂肪肝よりもさらに進行した“脂肪性肝炎”になっていることもよくあります」(河田教授)
肝機能の異常は、自覚症状がないため、健康診断や人間ドックで発見されるか、ほかの病気で検査を受けたときに、『ついで』に見つかることが多い。これが“沈黙の臓器”といわれる所以だ。