なんという痛々しい傷跡か。ここに紹介した写真は、山梨県側の吉田ルートから見た富士山。左の稲妻のようなギザギザは、登山道や荷揚げなどのために整備されたブルドーザー道である。
シーズンともなれば毎年30万人が山頂を目指し、近年は中国をはじめ、東南アジアからも大挙して押し寄せるという。頂上近くでは何かと必要なのだろうが、それにしても、である。
富士山が世界遺産に登録されるまでの道のりは険しかった。ゴミの不法投棄が止まず、「自然遺産」としては国内の候補地にも入らなかった。ようやくのこと、晴れて「文化遺産」登録が確実となったわけだが、こんな“顔”では浮かばれまい。
世界を見渡せばガラパゴス諸島をはじめ、入場規制を設けた世界遺産が増えている。富士山の地元でも入山料の徴収を検討するが、入山規制までには至っていない。
黙して語らぬ富士山に、いつまでも甘えてばかりはいられない。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2013年6月7日号