午後8時。今夜もまたいつものように『三国屋酒店』の角打ちカウンターは、木場、東陽町界隈のサラリーマンたちで賑わっている。
多くの角打ち店が夕方6時前後から活況を呈するのとは違って、この店に集まる男たちの出足は遅い。こんな時間にもかかわらず、ついさっき、あるいは今来たところという客がほとんどなのだ。愛しさと親しみをこめて“レイトショー専門の角打ち劇場”と呼ぶファンも多い。
「水曜日以外は、皆さん残業を終えてから来られるんで、この時間になるんですね。こういう店は、だいたい9時ごろには閉めるところが多いんですが、それじゃ落ち着いて飲めないでしょ。だからうちの閉店時間は10時半と遅くしてあるんです」と、2代目主人の高野浩さん(41)。
「遅くまで開けていてくれるから、あせることなく残業にも身が入るし、そのあとの楽しみも保証されているんですからね。来れば2時間はいます」(36歳)。「会社から20秒で来れる近さにあるんだけど、それでも9時閉店だったらあせるよね。それが10時半までなんて、うれしすぎるよ」(60代)と、客の反応は、すこぶる良好だ。