描き上げた富士山を背に笑顔の中島盛夫氏
ドーンと広がる無地の壁面に、熟練の筆使いで富士山を豪快に描いてゆく。下書きもなく、ぶっつけ本番。仕上がるまで、周囲もどんな絵になるのか想像がつかない。
これまで5000点の富士山を描いてきた銭湯絵師、中島盛夫氏は、いつも構図を当日現場で考えるという。それでも稜線を描く筆先に一切の迷いはない。「修業時代に富士山に通い、全方位の景色が頭に入っている」と、さらりという。
この日は、山梨側から望む初夏の富士山を選んだ。雪積もる白い山頂に陰影を入れれば、たちまち立体感を帯び、山に命が吹き込まれる。熟練の絵師も最も緊張する、腕の見せ所だ。
「空塗り3年、松の木10年、富士は一生というほど、富士山を描くのは難しい。冠雪した雄姿など、一生かけて一人前になれるかどうか」(中島氏。以下「」内同)