安倍政権が悲願とする「特定秘密保護法」が今国会で成立しようとしている。権力者に不都合な情報の隠蔽を可能にする同法案が「天下の悪法」であることは言を俟たないが、同法が縛るのは秘密を報道するメディアだけではなく、第一義的には「国家機密を漏洩した者」、すなわち霞が関官僚たちのはずだ。
しかし、なぜか法案の成立を静かに見守るだけである。本誌名物の覆面官僚座談会では財務省中堅官僚A氏、経済産業省中堅官僚B氏、外務省若手官僚C氏、防衛省若手官僚D氏に集まってもらい、なぜ法案に反対しないのか、その理由を語ってもらった。
(司会・レポート/武冨薫)
──なぜ、あなた方は反対しないのか。
財務A:国家の枢機に参画するのは官僚の誇りであり、ある種、醍醐味でもある。だから決して機密を漏らさないし、退官後も墓場まで持って行く。特定秘密保護法案で罰則が強化されたからといって、その覚悟に変わりはない。
経産B:機密を漏洩しても“不逮捕特権”がある財務官僚がそれをいうかね。
(「不逮捕特権?」とC、Dは驚いた様子)
──財務官僚の不逮捕特権とは聞いたことがない。何のことか。
経産B:特定秘密保護法案のベースになっている改正自衛隊法では、「防衛秘密」を漏洩した者は最高5年以下の懲役となる。秘密保護の対象は、防衛省職員の他に、民間の防衛産業の担当者、他省庁の「防衛に関連する職務に従事する者」にまで及ぶ。
財務省で防衛予算を担当する主計官や主査、係員は、日本が迎撃ミサイルを何基調達したかなどミサイル防衛計画などの秘密の内容を知る立場にあるから、当然、対象のはずだが、現行法では罰則が及ばない。民間の軍事産業の担当者が防衛秘密を漏洩したら自衛隊法違反で懲役5年だが、財務省主計官の防衛担当は逮捕されない。そうでしょう、Aさん。
財務A:自衛隊法の防衛秘密漏洩の罪は秘密の「業務取扱者」までで、主計局のように自己の業務の遂行のために秘密の伝達を受ける「業務知得者」までは及ばないと聞いたことはある。
経産B:財務省はそんな特権があるから、防衛省に「資料を出せ」と気軽にいえるわけだ。