今年の流行語大賞から漏れはしたが、「ブラック企業」ほど今年浸透した言葉もないだろう。しかしその定義となると案外難しい。コラムニストのオバタカズユキ氏が考察する。
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さきごろ「2013 ユーキャン新語・流行語大賞」が発表された。年間大賞に選ばれたのは、「今でしょ!」「お・も・て・な・し」「じぇじぇじぇ」「倍返し」の4つ。たしかにそれらは大流行した。しかし、2013年という年はそこまで軽くて明るく元気だったか。ちょいと疑問だ。
トップテン入りして受賞を逃した新語に「ブラック企業」がある。重くて暗く憂鬱な言葉だけれども、その手も1つぐらい混ぜたほうがリアルではないか。私はそう思った。ただし、問題なのはこの新語が流行語ではない点だ。実際の落選理由は知らないが、「ブラック企業」は来年も再来年も、おそらくは10年後も日常的に使用される。残念ながら、おそらくこの国に定着する構造を指す。すでに使うと恥ずかしい「今でしょ!」とは違う。
このやっかいな「ブラック企業」に関して、大賞発表の少し前に注目すべき動きがあった。学者や弁護士などによる「ブラック企業対策プロジェクト」という任意団体が、『ブラック企業の見分け方~大学生向けガイド~』を作成したのだ。A4計64ページからなる冊子で、その出来がかなりいい。しかも定価0円で、PDFファイルのダウンロードが自由なのだ。
検索すればすぐに出てくるので、プリントアウトの上、ぜひ熟読されたい。想定読者は題名通りに、自分の就職先がブラック企業になることを心配する大学生なのだが、私は人事担当や広報担当など企業の中の人にもお勧めする。多くの企業の人たちが、「ブラック、ブラックうるさいな~。その言葉が広まったおかげで採用活動がやりにくいんだよ!」と苛立っていることは知っている。だからこそ、お目通しいただけたら良いと考える。
「ブラック企業」とは何か。定義をめぐる議論はいろいろあるが、この冊子の著者の一人でもある今野晴貴氏がよく使うフレーズを借りれば、「若者を使い潰す」企業のことだ。そして、少なからずの企業が「うちは使い潰してなんかいない。なのに『御社はブラックですか?』と言わんがばかりの就活生が最近増えて……」と戸惑っている。ここ最近の就活生が最も気にしていることは、貴社がブラック企業か否かだ。
ならば、プラグマティックにそう勘ぐられないような対策をとればいいと思うのである。後ろめたいところがないのなら、へんに誤解されないためにも、「ブラック企業の見分け方」を知り、ブラック企業に見られない方法を検討してみたらいかがだろう。
冊子は、このウェブマガジンでもおなじみの常見陽平氏の「求人広告から見分ける――気をつけておきたいブラック企業の兆候」から始まる。ついついはしゃぎがちなオヤジ文体は封印し、人事と教育のプロとして、粛々と「見分け方」を記述している。
常見氏によれば、例えば、就職ナビの求人広告で「社長の経歴の誇張」をしている企業には気をつけろとのこと。〇〇社在籍中に全国トップのセールスをあげて、といった調子でプロフィールがやたらに濃い社長紹介のことだ。もし貴社の求人広告がそうなっていたら、「自粛」したほうがいいだろう。私の経験則から言うと、社長の人物像がまったく見えない求人の場合もヤバい会社であることが多い。逆にドカーンと社長の写真が掲載されているケースもヤバめ。何事もほどほどがいいのだ。