日本では12月13日から公開が始まったハリウッド映画『ゼロ・グラビティ』。日本に先立つ11月20日から『地心引力』というタイトルで公開が始まった中国でも、連日多くの観客が映画館に詰めかけ、同映画が最も収益を上げた国になっている。
以降はネタバレになるから鑑賞予定の方は読まないことをお勧めするが、これには理由がある。
あらすじは、船外活動中に地上60万メートルの宇宙空間に放り出されたサンドラ・ブロック演じる女性宇宙飛行士が、命からがら中国の宇宙ステーション「天宮一号」に乗り込み、命からがらドッキングされていた宇宙船「神舟」で地球に帰還する、というもの。
宇宙空間の映像と、無重力状態をうまく再現していることへの賞賛が集まる同作品だが、日本人観客の感想は「風景は美しいけれど展開に意外性がない」(27歳女性・事務)、「もう少しストーリーにひねりが欲しかった」(40歳男性・金融)などといった辛口の指摘も少なくない。
また、フィクションに厳密な考証が必要かどうかは議論が分かれるところだが「国際宇宙ステーションと天宮一号とは軌道も高度も違うので、簡単に乗り移れるわけがない」(天文マニアの男性)などの指摘もあり、専門的にはツッコミ所が少なくないようだ。
だが、そんなことはお構いなしに中国人たちは同作を大歓迎している。中国の代表的都市である上海でも、多くの映画館で同作品が上映され、毎回満席に近い客入りが続いているという。
物は試しと、上海出張の合間に映画館に足を運んでみた。窓口で鑑賞券を求めると、料金は100元だった。1元は約17円だから、日本の映画館で見るのと大差ない。さらに物価の差を考慮すると5000円は下らないというから、決して安くない。
中国では上映時間や映画館によって料金がかなり異なるほか、「グルーポン」に似た割引サイトが台頭しており、半額ほどで観ることができる場合もある。だが、5割引でも決して安くはない。
入口で白縁の3Dメガネを受け取って着席。話し声や、お菓子を食べる音が常にザワザワしていて落ち着かない。映画が始まって間もなく、メガネの向こうから宇宙飛行士が誤って飛ばしたネジが迫ってくる。客席からはいっせいに「アイヤー!」の声が上がる。
次に中国人観客を沸かせたのは、主人公がいよいよ中国の天宮一号に入るシーン。ステーション内は無人なのだが、中国語の操作盤があったり、卓球のラケットがプカプカと浮いている。
無重力で卓球ができるわけもないので、これも中国人観客向けの「サービスシーン」なのだろうが、観客の中には歓声を上げたり「我が国の宇宙ステーションだ!」などと興奮気味にスクリーンを指差す人までいた。