生活保護を正面からテーマにした漫画「陽のあたる家」(秋田書店)が先週発売され、早くも話題になっている。生活保護バッシングが続くなか、なぜ敢えて取り上げたのか。作者のさいきまこさんに聞いた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)
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主人公は中学生の娘と小学生の息子、夫との4人暮らしの主婦。パートを掛け持ちしながら、誕生日に発泡酒ではなくビールを飲むのが幸せというつつましい生活を送っていた。だが夫が病気で倒れ、退職に追い込まれてから坂道を転が落ちるような生活が始まる。NPO団体の支援を受けて生活保護を受給するが、今度はいわれのないバッシングに。ラスト、バッシングしていた相手が主人公の立場を理解して心を入れ替え、
「生活保護が恥ずかしいって言うけど、困っている人が救われることを非難するほうが、よっぽど恥ずかしいと思うもの」
と語るセリフが響く。
--そもそも生活保護をテーマにしようと考えられたのはなぜですか。
さいき:私自身、離婚して息子と2人暮らしで将来の生活に不安がありました。そんなことを知人にこぼしていたら「生活保護があるよ」と言われて関心を持ちだしたときに、タレントの「次長課長」の河本準一さんの騒動が起きた。なんであれだけ叩かれるんだろうといろいろネットなどを見ていて、どうも生活保護という制度自体をみんな正しく理解していないんじゃないか、この制度の理解を助ける漫画を描こうと思いました。
--漫画では生活保護の申請にいくと窓口で追い返されるいわゆる「水際作戦」の様子や、福祉事務所職員が家の中に立ち入る「資産調査」、子どものお年玉貯金の残高を1円単位まで調べられるなど、リアリティのあるシーンが描かれています。事前にかなり取材されたのですか。
さいき:NPO法人の「自立生活サポートセンター・もやい」にボランティア登録をして、困窮している人の生活相談に立ち会わせてもらったり、生活保護申請に同行もしました。取材となるとどうしても傍観者になるじゃないですか。それよりも実際に 困窮している人と行動をともにして目線を同じにしないと、その人たちの本当の姿が見えないと思いました。
--生活保護を受給した主人公をバッシングするのが、娘の同級生の親でシングルマザーというのが印象的です。この人も生活が決して楽ではないはずなのに。
さいき:「弱い人が弱い人を叩く」というのが今の現実なんです。生活保護をバッシングしているネットでは、「俺も苦しいのに生活保護もらって楽しやがって」という意見が非常に多いのがショックでした。ここ数年ずっと「自己責任論」がやかましくいわれていて、「助けを社会に求めるのは恥ずかしいこと」と刷り込まれているんじゃないでしょうか。真面目に働いていても生活が苦しいのは自分のせいで、社会の構造のせいだとは思わないから、生活保護という助けを利用する人が許せない。しかも、生活保護の報道といえば不正受給ばかり。実際は悪意のない「収入の申告忘れ」も不正受給にカウントされていて、それでも生活保護費全体のわずか0.4%にすぎないのに。