17回を数える文化庁メディア芸術祭功労賞にオリジナル作品限定の同人誌即売会「コミティア」代表の中村公彦氏が選出された。国立新美術館で2月5日から始まる受賞展を控え「参加者のみんなで受賞したと考え、私が代表させてもらう形でありがたくいただくことにしました。この受賞は、同人誌が一般化した象徴だと思っています」と中村氏は言う。
マンガ同人誌の世界は、昨秋の「藤子・F・不二雄展」で展示された高校時代の手書き同人誌「少太陽」などにもさかのぼれるが、それは限られた友人の間で回覧する規模のものでしかなかった。一般化されたのは、世界最大の同人誌即売会となったコミックマーケット(コミケ)が初開催された1975年以降とみてよいだろう。最初はこぢんまりとした若者だけの集まりだったと中村氏は言う。
「初期のコミケは大学のマンガ研究会、個人のオリジナル作品発表やマンガ家のファンクラブが主な参加者でした。その後、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』の人気が広がるとパロディ同人誌が少しずつ増え、『キャプテン翼』の大ブームをきっかけに参加者が広がり、マンガを描く面白さがより多くの人に認知されていきます」
1980年代は『キャプテン翼』だけでなく『機動戦士ガンダム』や『うる星やつら』など数多くのマンガやアニメ作品が大きな人気を集めたが、各種のインフラが整備されたことも大きな変革をもたらした。
「同人誌を専門に扱う印刷所が1980年代半ばに普及し、個人で100~300冊程度の本を2~3万円で制作できるようになったのは大きな転換点でした。また、それまで自分たちの手で持てる分量しか書籍の搬入や購入ができませんでしたが、宅配便が普及したことで多くの量が扱えるようになりました。印刷所もそれにあわせて即売会の場所へ直接、納品するサービスを始め、今では当たり前の光景になっています」(前出・中村さん)
その後、1990年代には販売と購入のチャンネルが増え、即売会を訪れなくても同人誌を入手できる方法が広がっていく。
「1990年代に同人誌専門書店が大規模化し購入窓口が広がりました。それまでは著者が自家通販していたため扱える量に限界があったのです。しかし『コミックとらのあな』や『アニメイト』に代表されるような専門書店が全国展開し、大規模なネット通販も始まったことで地方在住でも同人誌を入手しやすくなりました」(前出・中村さん)
2000年代になってメイド喫茶やアニメ、ゲームや同人誌を好むオタクを中心としたアキバ系のポップカルチャーが脚光を浴びると、同人誌に関わる層はさらに幅広くなった。同人誌市場については年間約700億円という試算もされている。
「アキバ系ブームを経験しインターネットが普及して、自分がつくったものを発表する敷居が下がりました。いま、同人誌の世界は本だけではなく、同人誌という趣味趣向を包括した文化という感覚になっています。コスプレやニコニコ動画、イラスト投稿SNSのpixiv(ピクシブ)などでのコミュニケーションもすべて含む印象です。同人誌市場700億円という試算がありますが、本についてだけでなくコミュニケーションすべてを含んだ数字だと思います」(前出・中村さん)