シリーズ累計490万部となる大ベストセラー『逆説の日本史』を本誌で連載中の作家・井沢元彦氏が、新たに挑戦し大きな話題を呼んでいる歴史ノンフィクション『逆説の世界史』。これまで、ウェブマガジン上のみでの公開だった同作品が、先日ついに単行本として発売された。“新たなライフワーク”と語る同シリーズに対する、井沢氏の意気込みを聞いた。
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『逆説の世界史』という新シリーズを始めた目的は二つあります。ひとつは歴史というものを人類共通の知恵として多くの読者に理解してもらいたいということ。もうひとつは、「文明はどのように発達し、なぜ衰退するのか?」という疑問を追究したいということです。
そこでまず最初にとりあげたのが、「古代エジプト文明」です。紀元前三〇〇〇年頃に初期王朝が始まり、約三千年間続いた後、最後のプトレマイオス朝がローマ帝国に滅ぼされたことで終わりました。ひとつの文明が三千年も続いたのは驚くべきことですが、逆に三千年も続いたのに、どうして現在に継承されたものがほとんどないのか? じつに不思議です。
連載を始めるにあたって私は、エジプトの古代遺跡を訪ねることにしました。夜明けにホテルを出発して日が暮れるまで取材、という日々を続け、北はカイロから南はアブシンベルの大神殿まで、総移動距離三千キロもの取材行になりました。
エジプトの古代遺跡といえば、誰でも思い浮かぶのはピラミッドでしょう。なかでもカイロ郊外のギザにある、「三大ピラミッド」が有名です。実際に目にするとその巨大さに圧倒されます。そして、これほどのものをいったい何の目的で作ったのだろう?という疑問が、あらためてわきました。
読者の中には、「ピラミッドは王の墓」という「定説」を信じている人もいるでしょう。しかし、これは大きな誤解です。ピラミッドは墓ではありません。意外に思われるかもしれませんが、これまでの発掘調査で内部に王のミイラが棺に入っている状態で発見されたピラミッドはほとんどありません。つまり、ピラミッドは王のミイラの収納施設=墓ではないといえます。
では、いったい何のために作られたのか? これだけ科学が発達した現在ですら、わかっていません。これこそ、古代エジプト史最大の謎といっていいでしょう。なぜわからないのかというと、それが記録されたものがまったく残されていないからです。常識で考えれば、ピラミッドほどの建造物であれば、どのような目的で建設されたかということがピラミッド自体に記されているはず。
ところが、内部に古代エジプト文字「ヒエログリフ」が刻まれたピラミッドもありますが、肝心の「このピラミッドが何の目的で作られ、どのように使われたか」についてはまったく触れられていないのです。それはなぜか。私は「言霊」のせいだと考えます。