日本が世界に誇るハイブリッド車(HV)の技術。2013年の新車販売台数では、HVの割合がついに2割を超えた(乗用車のみの数値)。ガソリン1リットルあたり30km以上走るのは当たり前という熾烈な低燃費競争のなかで、販売台数で3か月連続トップを走り続けているクルマがある。昨年9月、6年ぶりにフルモデルチェンジを受け生まれ変わった、ホンダの小型乗用車『フィット』だ。
「新型『フィット』がめざしたのは、“四輪の『スーパーカブ』”。日本はもちろん、世界中で愛されるクルマになってほしいのです」
新型『フィット』の開発責任者を務めた本田技術研究所四輪R&DセンターLPL主任研究員の小西真は、おもむろにそういった。開発にあたっては、プラットフォーム(車台)からエンジン、変速機に至るまで一新することになった。
「まずめざしたのは、“世界一の低燃費”です」
当時、ガソリン乗用車で低燃費車世界一の座にあったのは、トヨタのHV『アクア』。リッター35.4kmという驚異的な燃費性能を誇っていた。“低燃費世界一”を実現するにはどうすればよいか? 小西は、社内で開発が進んでいた新型ハイブリッドシステムに目を付けた。
「iDCD」と呼ばれるこのシステムは、出力が増強されたモーターと伝達効率の高い変速機、そして充電性能に優れたリチウムイオン電池で構成される。発進時と街中では通常走行にあたる時速50kmまではモーターだけで走行し、それ以上の速度や加速時はエンジンも併用。時速100km以上ではエンジンのみの走行に切り替えることで、圧倒的な低燃費を可能にする。これを新型『フィット』に搭載できれば、世界一の低燃費を実現できるに違いない。
ところが、まったく新しいシステムを『フィット』のような“失敗が許されない”新型車に搭載することに、反対の声が上がった。
「新型『フィット』のようなビッグネームにこそ、“新技術で世界一の低燃費を実現しました!”というアピールが必要じゃないのか! そういって社内を説き伏せてまわりました(笑)」
その甲斐あって、「iDCD」は、やはり新設計の超高効率エンジンとともに、『フィット』に初搭載されることが決まった。さっそく試作車を走らせてみたところ、その燃費はなんと、リッター36kmを超えているではないか! しかもダイレクトな加速感で、ホンダ車らしいきびきびしたドライビングも味わえる。
次に着手したのは、広くて快適な車内スペースの確保だった。