ライフ

森内竜王・名人 謙虚だからこそ、自らの弱さを省みて強い

森内俊之竜王・名人(43歳)

 カミソリのような天才肌ではない。圧倒されるような威圧感もない。それでも彼が現在の将棋界のトップであることは、紛れもない事実だ。

「名人戦のことは、これから考えます。もちろんある程度の対策や作戦は練りますが、羽生さんとの勝負は、自分がベストの力を出せなければ、勝つことはできません。結局は、一局ごとに集中するということしかないんです。徐々に気持ちを高めていければいいと思っています」

 4月8日に開幕する第72期将棋名人戦。森内俊之竜王・名人の挑戦者が、羽生善治三冠に決定した。9回目の顔合わせは史上最多タイで、4年連続は史上初めてだ。

「さすがに新鮮とは言えませんが(笑)、羽生さんとの対局には毎回発見があります。羽生さんと戦うことで、より深く将棋を知ることができるんです」

 過去8回は、森内の5勝3敗。ここ3年は、3連勝している。森内は、著書『覆す力』(小学館新書)で、羽生との関係をこう綴っている。

『私と羽生さんの関係をよく“永遠のライバル”、“終生のライバル”などと言う人がいるが(中略)、ライバルというのは、もっと拮抗した実力を持つ者同士のことを称するのではないだろうか。(中略)互いにプロになってからの対戦成績は、五十七勝六十六敗と私が負け越しているし、生涯勝率も私が六割四分一厘であるのに対し、羽生さんは七割二分二厘。(中略)ライバルというよりも、終わりなき将棋の道をともに歩き続ける仲間であり、永遠に追いかけ続ける目標だ』(勝敗数、勝率は、すべて1月8日現在)

 将棋界ではこれまで、一番強い“指し盛り”は、二十代後半から三十代前半と言われてきた。しかし四十代の森内、羽生らがその常識を変えつつある。

「四十歳を超えてから、記憶力や集中力にも衰えを感じるようになりました。でも逆に長年将棋を指し続けてきたことで養われた感覚、大局観で衰えを補えるのではないかと考えています」

 昨年末には、次代を担うといわれる二十九歳の渡辺明現二冠から竜王位を奪取。衰えるどころか、ここにきて、さらに強くなったという声も多い。

「渡辺さんと戦ったことで、改めて将棋の面白さ、奥深さを知ることができました。もっと自由に将棋を楽しみ、少しでも長い間、第一線で指し続けることができたらいいなと思っています」

 謙虚だからこそ、自らの弱さを省みることができる。それこそが“特別ではない”森内の強さの秘密だ。謙虚さを武器に、さらなる高みへ。彼はこれからも進化を続けるのだろう。

取材・文■川上康介 撮影■藤岡雅樹

※週刊ポスト2014年2月28日号

関連キーワード

トピックス

男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロ2人が並んで映ったポスターで関係者ザワザワ…「気が気じゃない」事態に
NEWSポストセブン
堀田陸容疑者(写真提供/うさぎ写真家uta)
《ウサギの島・虐殺公判》口に約7cmのハサミを挿入、「ポキ」と骨が折れる音も…25歳・虐待男のスマホに残っていた「残忍すぎる動画の中身」
NEWSポストセブン
船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
MajiでFukkiする5秒前(時事通信フォト)
2年ぶり地上波登場の広末涼子、女優復帰は「過激ドラマ」か 制作サイドも“いまの彼女ならなら受けるのでは”と期待、“演じることにかつてなく貪欲になっている”の声も
週刊ポスト
昨年不倫問題が報じられた柏原明日架(時事通信フォト)
【トリプルボギー不倫だけじゃない】不倫騒動相次ぐ女子ゴルフ 接点は「プロアマ」、ランキング下位選手にとってはスポンサーに自分を売り込む貴重な機会の側面も
週刊ポスト
YouTubeでも人気を集めるトレバー・バウアー
【インタビュー】横浜DeNAベイスターズ、トレバー・バウアー「100マイルを投げて沢村賞を獲る」「YouTubeは第2の人生に向けての土台作り」
週刊ポスト
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん
《ドバイの路上で脊椎が折れて血まみれで…》行方不明のウクライナ美女インフルエンサー(20)が発見、“危なすぎる人身売買パーティー”に参加か
NEWSポストセブン
公開された中国「無印良品」の広告では金城武の近影が(Weiboより)
《金城武が4年ぶりに近影公開》白Tに青シャツ姿の佇まいに「まったく老けていない…」と中華圏のメディアで反響
NEWSポストセブン
女子ゴルフ界をざわつかせる不倫問題(写真:イメージマート)
“トリプルボギー不倫”で揺れる女子ゴルフ界で新たな不倫騒動 若手女子プロがプロアマで知り合った男性と不倫、損害賠償を支払わずトラブルに 「主催者推薦」でのツアー出場を問題視する声も
週刊ポスト
すき家の「クチコミ」が騒動に(時事通信、提供元はゼンショーホールディングス)
【“ネズミ味噌汁”問題】すき家が「2か月間公表しなかった理由」を正式回答 クルーは「“混入”ニュースで初めて知った」
NEWSポストセブン
本格的な活動再開の動きをみせる後藤久美子
後藤久美子、本格的な活動再開の動き プロボクサーを目指す次男とともに“日本を拠点”のプラン浮上 「国民的美少女コンテスト」復活で審査員を務める可能性も 
女性セブン
スシローから広告がされていた鶴瓶
《笑福亭鶴瓶の収まらぬ静かな怒り》スシローからCM契約の延長打診も“更新拒否” 中居正広氏のBBQパーティー余波で広告削除の経緯
NEWSポストセブン