ライフ

NHK偽物番組 佐村河内氏以前にもイスラエル英雄デッチ上げ

「現代のベートーベン」を持て囃した『NHKスペシャル』は、とんだ大誤報となっただけでなく、番組作りに根本的な疑問を喚起した。本当にNHKは「騙された」だけなのか。

 今のところ、稀代のイカサマ作曲家・佐村河内(さむらごうち)守氏を大スターにしたNHKに対する評価は、「騙された被害者」か、せいぜい「見抜けなかった間抜け」といったところだろう。しかし、それは甘すぎる。

 一罰百戒で断罪するわけではない。NHKにはそういう体質があるのだ。15年前、同じように大作ドキュメンタリーで「ニセモノの英雄」を祀り上げた疑惑を紹介する。

 タイトルを『ナチハンター~アイヒマンを追いつめた男』という。1999年5月30日に「BS10周年企画 ドキュメンタリー特集」の1本として放映された番組だ。

 題名の通り、ナチス幹部でユダヤ人大量虐殺の中心人物として知られるアドルフ・アイヒマン(1906~1962)をイスラエルの諜報機関・モサドが拘束した作戦を描いていた。有名なナチス幹部、名高い拘束劇、世界中が注目した裁判と処刑舞台装置に不足はなく、NHKが大金を注ぎ込んで制作するに値するテーマではあった。

「追いつめた男」として登場したのはピーター・マルキンという人物で、番組では「アイヒマン誘拐作戦を実行した隊長」とされた。

 マルキン氏は撮影班とともに作戦の舞台となったアルゼンチンを訪れて身振り手振りで拘束の場面を再現し、さらに拘束後にアイヒマンにワインと煙草をふるまって会話したというドラマチックなエピソードを明かす。撮影はアメリカや、アウシュビッツ収容所があったポーランドにも足を運ぶ念の入れようだった。

 ところが放送からわずか1か月後、「マルキン隊長」が、実は偽者だという衝撃的な報道が出ることになる。

 同年7月9日付の『週刊ポスト』が、「NHK『ナチス特番』に英雄デッチ上げ疑惑」とのタイトルで、この作戦の「本当の隊長」はラフィ・エイタンという人物で、マルキン氏は作戦メンバーの一人にすぎないと報じたのである。

 読者に正しい判断をしてもらうためにディスクローズしておくと、『週刊ポスト』は本誌と同じ小学館発行の雑誌である。もちろん編集部は別だが、当時この記事を担当したのは本誌の現在の編集長である。したがって取材の経緯を詳しく知る立場にあり、同時に「誤報問題」のきっかけを作った当事者でもある。

 記事では、その年の3月に出版されて世界的ベストセラーになった『憂国のスパイ』(日本語版は光文社刊)の著者であるゴードン・トーマス氏にインタビューしている。同書は秘密のベールに包まれたモサドの活動を明らかにしたことで話題となり、アイヒマン拘束劇についても詳述している。

関連キーワード

関連記事

トピックス

旧統一教会は今後どう動くのか(時事通信フォト)
解散命令を受けた旧統一教会 「自民党への復縁工作」もありうると鈴木エイト氏指摘、教団と議員の関係を示す新情報リークの可能性 石破首相も過去に接点
週刊ポスト
藤川新監督(左、時事通信フォト)の船出とともに、名物商店街にも大きな変化が
阪神「日本一早いマジック点灯」のボードが電光掲示板になっていた! 名物商店街が今季から「勝った翌日に減らす」方式を変更 貼り替え役の店長は「ようやく解放される」と安堵
NEWSポストセブン
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん
《ドバイの路上で脊椎が折れて血まみれで…》行方不明のウクライナ美女インフルエンサー(20)が発見、“危なすぎる人身売買パーティー”に参加か
NEWSポストセブン
公開された中国「無印良品」の広告では金城武の近影が(Weiboより)
《金城武が4年ぶりに近影公開》白Tに青シャツ姿の佇まいに「まったく老けていない…」と中華圏のメディアで反響
NEWSポストセブン
女子ゴルフ界をざわつかせる不倫問題(写真:イメージマート)
“トリプルボギー不倫”で揺れる女子ゴルフ界で新たな不倫騒動 若手女子プロがプロアマで知り合った男性と不倫、損害賠償を支払わずトラブルに 「主催者推薦」でのツアー出場を問題視する声も
週刊ポスト
林芳正・官房長官のお膝元でも「10万円疑惑」が(時事通信フォト)
林芳正・官房長官のお膝元、山口県萩市の元市議会議長が“林派実力者”自民党山口県連会長から「10万円入りの茶封筒を渡された」と証言、林事務所は「把握していない」【もうひとつの10万円問題】
週刊ポスト
本格的な活動再開の動きをみせる後藤久美子
後藤久美子、本格的な活動再開の動き プロボクサーを目指す次男とともに“日本を拠点”のプラン浮上 「国民的美少女コンテスト」復活で審査員を務める可能性も 
女性セブン
24時間テレビの司会を務めた水卜麻美アナ
《水卜アナ謝罪の『24時間テレビ』寄付金着服事件》「まだ普通に話せる状況ではない」実母が語った在宅起訴された元局長の現在
NEWSポストセブン
すき家の「クチコミ」が騒動に(時事通信、提供元はゼンショーホールディングス)
【“ネズミ味噌汁”問題】すき家が「2か月間公表しなかった理由」を正式回答 クルーは「“混入”ニュースで初めて知った」
NEWSポストセブン
スシローから広告がされていた鶴瓶
《笑福亭鶴瓶の収まらぬ静かな怒り》スシローからCM契約の延長打診も“更新拒否” 中居正広氏のBBQパーティー余波で広告削除の経緯
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・HPより 写真はいずれも当該の店舗、スタッフではありません)
《丸ごとネズミ混入》「すき家」公式声明に現役クルーが違和感を覚えた点とは 広報部は「鍋に混入した可能性は著しく低い」と回答
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 山本太郎が吠えた!「野党まで財務省のポチだ」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 山本太郎が吠えた!「野党まで財務省のポチだ」ほか
NEWSポストセブン