被災地で一番進んでいる工事は「防潮堤」だ。住民の反対・困惑をよそに膨大な予算がつき、東北の海岸には次々にコンクリートが流し込まれている。街も道もなく人もいない荒野を見下ろす巨大な壁が守るのは、カネに群がる政治家と役人ではないのか。ジャーナリストの武冨薫氏が被災地の実情をレポートする。
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津波で大きな被害を受けた気仙沼市本吉町の海岸では、雪が舞う中、わずかに残った松の隣で大型ショベルカーが唸りを上げて砂浜を掘り起こし、高さ約10mの長大な防潮堤の建設が進んでいる。
岩手・宮城・福島3県の沿岸を総延長400km近くにわたってコンクリート堤防で覆う総事業費約8500億円の“万里の堤防”計画だ。
宮城県内で最も高い14.7mが建設される本吉町小泉地区は家も道路も津波に流され、高台移転が決まっているため住民はいない。松島湾では「農地保護」を名目に20億円かけて無人島の耕作放棄地まで防潮堤で囲われる計画だ。
一体、何を守るための堤防なのか。各地の住民からは防潮堤建設への疑問の声が上がっている。一部で高さが見直されているものの、基本的には国も自治体も計画をゴリ推しする姿勢だ。
被災地の防潮堤は国が方針を決め、「海岸管理者」=県(一部は市町村)が計画を決めることになっている。それを国が査定し、予算は97~98%(地域によっては100%)国が負担する。
震災後、政府は国土交通省と農林水産省の課長通知(2011年7月)で、復旧・建設する防潮堤を明治三陸沖地震など「レベル1」(L1)と呼ばれる「数十年から百数十年に1度」の規模の津波を防ぐ高さにする基準を定めた。
例えば、気仙沼湾の奥に位置する鮪立(しびたち)地区では町史に明治三陸沖津波の高さが4mと記録されている。だが、県の担当者が説明会で示した防潮堤は2倍以上の9.9m。 「5mで十分」という住民たちの声に、県側は、「L1の津波を想定したシミュレーションの結果だ」と押し切った。