販売量はピークの1975年から3分の1に落ち込み、3000以上あった酒蔵が半減した日本酒市場。縮み上がるパイの中、唯一、山口の片田舎で造られる純米大吟醸「獺祭」(だっさい)が破竹の勢いで売れ行きを伸ばしている。蔵元の旭酒造の年商は25年で10倍、この5年間は前年比130%を超える急成長を続ける。
単に辛口の酒ではない。サラサラとして柔らかい口当たり。口に含むと綺麗な甘みがふくらみ、鼻の奥に華やかでバランスのいい香りが広がる。この味が多くのファンを惹きつけ、「獺祭」ブームを生んだ。
人気は沸騰し、訪れた山口県岩国市の山奥にある蔵元・旭酒造には、全国各地から酒蔵の視察がひきもきらない。土日ともなれば100人を超える一般のファンが敷地内にあるショップに「獺祭」を求めて足を運ぶ。いまや入荷2か月待ちはザラ。販売店で買えないためにわざわざ車で来るのだが、誰もが肩を落として引き返す。酒蔵に隣接する直営店であっても、全国への出荷を優先するため入荷しないからだ。
「獺祭」人気は国内にとどまらない。とある国の元首級のVIPから新年を祝う内輪のパーティのためにと注文が入った。ところがこの年、元日は土曜で税関を通すことができないとわかった。結局、酒蔵のスタッフが飛行機に飛び乗り届けたというのだから驚く。
そして今、「獺祭」はパリの3つ星レストランのワインリストにも当然のように載り、かの地では「日本のロマネコンティ」と呼ばれるまでになった。
さらに昨年6月に来日したオランド仏大統領の首相主催午餐会では「甲州ワイン」とともに供され、グルメ大国フランスから17年ぶりに訪れた国家元首を唸らせた。
住民わずか500人の山間の過疎の町から年間110万本出荷される銘柄は「獺祭」のみ。しかも、米と水と米麹だけを原料とし、米を50%以上削った純米大吟醸だけだ。
中でもその名を高めたのは、精米歩合23%の「磨き二割三分」。限界まで磨き上げることで生まれた味わいはこれまでの日本酒のイメージを一新し、「奇跡の酒」とも呼ばれる。
撮影■佐藤敏和
※週刊ポスト2014年4月18日号