PCで設計したものをそのまま形にできる技術が、急速に普及している。特に3DCADや3DCGデータを元に、短時間で3次元の立体模型を作成できる3Dプリンターは、ここ数年で特許が次々と切れたことで低価格化。1台数百万円だったものが、数万円~数十万円で購入できるようになり、中小企業や家庭でも導入が進んでいる。
一方で、冬季オリンピックで注目されドラマにもなった、東京都大田区の町工場が挑んだ「下町ボブスレー」など、日本人ならでは繊細な手作業への注目も高まっている。こうした “ザ・ニッポンのモノづくり”に大企業でありながらこだわり続けることで、世界でも高い評価を得ている業界のひとつが、自動車メーカー。そのモノづくりの現場を取材した。
「“ここにあと、これくらい盛ってみよう!”と、その場で意見を出し合って、すぐ手直しができる、全体の微妙な表情の判断がしやすいなど、PCで作るデータや3Dプリンターではかなわないメリットが、クレイにはたくさんあります」と語るのは、マツダ デザイン本部のクレイモデラーである助川裕さんだ。
クレイモデラーとは、デザイナーが描いたデザインスケッチを手作業によってクレイ(粘土)の立体モデルにしていく仕事で、工業デザインの世界では重要な役割を担っている。一般的に自動車メーカーでは1/4サイズ、1/1サイズなどのクレイモデルを造って開発を進めていくが、特にマツダの場合、開発全体の中でクレイモデルに関わる時間が、非常に長いのだという。開発拠点が世界中に広がり、スピードも要求される中、手作業のクレイモデルにこだわることで効率性は損なわれないのだろうか?
「デザイナーとクレイモデラーのバトンリレーではなく、一緒にクレイを見ながら、ここはおかしい! ここはいい! とディスカッションしながら、どんどん作り直せるのはクレイならではで、スピードも意識共有も大きいんです。また、クルマが本来もっとも美しく見える自然光の中での表情をチェックするため、クレイモデルを屋上に持ちだして全員で検討するといったことも、クレイなら当たり前のようにできます。
そうして各国の拠点で練り上げられたクレイモデルを持ちよってコンペティションを行い、さらに絞り込み、研ぎ澄ましていく。効率が悪いと感じたことはありませんし、効率以上のメリットがクレイには大きいと思っています。」(助川さん)