10期連続の赤字で7月には分社化される予定のソニーのテレビ事業。だが、同社の平井一夫社長は、将来的なテレビ事業の売却可能性を否定するどころか、「分社化することで経営スピードを上げ、黒字化できる」と強調してきた。
平井氏の自信の裏付けとなっているのは、フルハイビジョン(HD)の4倍の画素数を持つ「4Kテレビ」の販売が好調に推移していることにある。ソニーの発表によれば、国内シェアは75%を占め、米国でも人気が高まっているという。
東芝、シャープ、パナソニックなど国内メーカーもこぞって参入し、じわじわと認知度が高まっている4Kテレビだが、なぜソニーのシェアがここまで高いのか。IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志氏が解説する。
「4月15日にソニーは最新モデル8機種を発表しましたが、従来モデルと変わらず一貫して高付加価値を追求し、『4Kはソニー』というプレミアム感やブランド力を演出するマーケティング戦略がうまいと感じました。
ソニー製の特徴は、単に画質のキレイさだけでなく音響技術にも力を入れて訴求している点。例えばスポーツモードを選択してサッカーの試合を見ると、実況の音声だけ消えて、まるでスタジアムで観戦しているかのような臨場感が味わえます」
高付加価値化へのこだわりは画面サイズにも表れている。
例えば東芝の新モデルは40インチの小型機種もラインアップに加えているが、ソニーは49インチ以上に絞り込んだ。「リビングにあるテレビが40インチ程度なら、わざわざ4Kに買い替えても高精細の良さが伝わらない」(大手家電量販店)との指摘は根強く、敢えてボリュームゾーンを狙わない戦略に出たのである。
だが、ソニーがいつまで高付加価値路線を貫いてシェアを保てるかは不透明な情勢といえる。なぜなら、4Kテレビ普及の最大のネックとなってきた価格の“値崩れ”が起きてきたからだ。
民間調査会社の調べによると、今年3月時点で4Kテレビの1インチ当たりの単価は約6100円。韓国のサムスン電子や中国メーカーなどの安価モデルも台頭してきたことで、今年中には1インチ5000円程度まで下落するものと見られている。そう考えると、「49インチ=32万円前後」のソニー価格を維持するのは容易ではない。