プロ棋士とコンピュータソフトが5対5の団体戦で戦う「電王戦」は、昨年の1勝3敗1分に続き、今年も1勝4敗と、人間側の劣勢が明確になってきた。人間側はもはや、「参りました」と頭を下げるしかないのか? 作家の大崎善生氏が「人間対コンピュータ」の裏側を綴る。
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電王戦第五局の対局後、将棋連盟で全対局者とプログラマーを集めて記者会見が行われた。その席での発言に驚かされた。
あるプログラマーはプロ側の1勝4敗という成績に、これは勝率2割なのでもはや平手の手合いではなく来年からはコンピュータ側が駒を落とすなり何らかのハンディを付けるべきだと言い始めたのである。プロ棋士に対してコンピュータが駒を落とすというのである。しかし現実の結果は間違いなく、将棋関係者は身を硬くして聞いているしかなかった。
次に勝負に敗れたプロ棋士が、検討用の将棋盤駒を自由に使わせてもらい一手15分という持ち時間を貰えば私は絶対に負けないと言い出したのにも驚いた。
棋士が対局にあたって他に検討用の盤駒を使わせろというのだから、では今までやり続けてきた頭の中で考え続ける将棋はいったいなんだったのだろう。そうすれば負けないという言葉は残念ながら、そうでなければ勝てないというふうに聞こえてならなかった。
(将棋ソフトの)ポナンザに敗れた大将格の屋敷伸之九段は、「負けたのは残念だが、自分の将棋は熱戦になったので満足している」と答えた。第一局に敗れた若手有望株の菅井竜也五段はソフトとの練習将棋では95勝97敗だったそうである。
これからもコンピュータを使い成長していきたい、と答えたのは唯一の勝者となった豊島将之七段。若手の中でも抜けた存在で超有望株である。対戦前に貸し出されたコンピュータと300番近くも指して徹底的に弱点を探ったそうである。その勝利への執念が実を結んだ。