あらゆる企業に「13億人市場」が魅力的に映ることは当然だ。一方で、中国進出と同時に始まる日系企業への「嫌がらせ」に辟易し、撤退する企業も増えている。しかし、撤退すら一筋縄ではいかないのがこの国の恐ろしさだ。
日系商社Aの上海支社に中国当局から屈辱的な通知が届いたのは昨秋のことだ。
A社では安全性の高い日本製の屋内配電ケーブルを中国で生産・販売しようと2009年から営業活動を続けてきた。2011年秋には北京のマンション建設業者から受注し、いよいよ中国での市場開拓に目途が立った。
ところが、中国での販売に必要な「CCCマーク」(日本の「JIS」「PSE」などに相当)の取得がハードルとなった。同製品は日本ですでにPSEを取得済みで安全性に問題はなく、中国での申請は容易に済むはずだったが、役所はのらりくらりと認証を出そうとしない。
担当の役人からは「もう一歩でなんとかなる」と言われ、露骨な裏金要求もあった。「あと一歩」がいつまでも続き、様々な名目でカネを取ろうとする。払った額の合計は数百万円。さんざん待たされた挙げ句、「専門家の意見」を理由に通知された結果は、やはり「認定不可」だった。
「新型ケーブルは中国のものよりコストが安い上、漏電しにくく火事のリスクも低い。中国のケーブル会社を保護するために参入阻止したのでしょう」とA社社長は憤る。
A社が被害にあったように中国企業に有利になるよう仕向ける(加えて現場の役人が裏金を要求する)パターンはかねて行なわれてきた日本企業いじめの典型例だが、特に2012年に尖閣諸島問題がクローズアップされてから、嫌がらせの対象は広範になっている。それによって財界が日本政府に「中国に妥協すべき」と働きかけることを狙っているのは言うまでもない。