伝票の品名の欄に「人形」と書かれたその遺体は、3月下旬より行方不明になっていた大阪・西成区の准看護師・岡田里香さん(29)だった。前代未聞の“死体の宅配便”が依頼されたのは3月23日。大阪市内の宅配会社のコールセンターに岡田さんを名乗る女性が、「粘土のフィギュアを送りたい」と連絡した。
宅配業者が岡田さんの自宅を訪れると、長さ約2メートル、幅1メートル、重さは50キログラムを超えた直方体に近い巨大な段ボールに包まれた荷物が用意されていた。依頼主の女性は、「中身は“粘土の人形”なので、多少動かしても壊れない」と語ったという。
実際には、およそどんな荷物でも運べてしまうブラックボックス──それが「宅配便」の実態だ。現役の麻薬取締官がいう。
「覚せい剤の密売では宅配便が使用されるケースが多い。宅配便の営業所には麻薬犬もいないし中身の検査もしない。しかも、もし覚せい剤が入った荷物を我々が押収したとしても、購入者を逮捕することができない。たとえ荷物が届けられた先に踏み込んでも、“勝手に送りつけられただけ”とシラを切られる。現物を持ち運ぶよりも、宅配便のやりとりのほうが、彼らにとって都合がいい」
宅配業者がもっとも恐れるのが爆発物だ。
「2003年には、砲弾マニアが自衛隊の演習場から持ちだした不発弾を宅配便で送り、営業所で爆発したという事件があった。あれが宅配中の車の中だと思うとゾッとする」(前出・業者幹部)
彼らがもう1つ恐れる“荷物”が生き物。取り扱わない業者が多いが、“おとなしい”ことを理由に、客側がこっそりと安価な宅配便で送るケースもある。ホビーショップのオーナーが声を潜めていう。
「爬虫類のように小さくて鳴かなければ、まずバレませんね。品名に“玩具”と書いて、毒を持つサソリを送ったことがある。プラスティックの飼育ケースの中に入れ、その上に段ボールで梱包する。たまに“カサカサ”と動く音がしても、開けられることはない」