「AKB48」のシングルを歌うメンバーを選ぶ「第6回AKB48選抜総選挙」の開票が6月7日に行われた。人気投票で選抜された彼女たちの言葉から気づいたことはなにか。フリー・ライターの神田憲行氏が語る。
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過去のダメな自分をゆっくりとした口調で語り始め、少しずつ声のトーンを高めつつファンに感謝の言葉を綴り、後半になると早口でこれからも努力し続けることを誓い、最後は改めて「ありがとうございました!」とファンへの感謝を絶叫する。
7日に行われたAKB総選挙の放送を見ていて、順位が発表されるたびにマイクの前で語る彼女らの言葉が興味深かった。AKB話法というのか、一定の様式がある。
それにしても「感謝」というフレーズがこれほど溢れ出るイベントもそうもないだろう。彼女らはファンにも、サポートしてくれるスタッフにも、周りの仲間にもとにかくよく「感謝」する。どこかで見た光景だなあと考えていたら、高校野球だった。いつごろからか覚えていないが、気づくと試合後の取材で、選手たちはよく保護者や監督に「感謝」するようになった。就活の会社説明会でも、学生が質問する前に「本日は貴重なお話ありがとうございました」と前置きするのが流行りのようで、「キチョハナカンシャ」と揶揄されたりしている。
あのう、もう若者に「感謝」を強要する社会って、止めません?
いや、彼・彼女らの素直な気持ちを否定するつもりはない。しかし彼・彼女らの「感謝」の多用は、「そう言った方が受けるよ」という大人側の微妙な空気を反映している気がする。
高校野球で、私学強豪校に通わせれば、たしかに学費以外に寮費や遠征費などで保護者が大きな出費を強いられることはある。しかしそれは親が子どもに許可してやらせていることだろう。東大行かせるために子どものころから塾に通わせるのと同じように、子どもの教育に親が投資するのは当たり前では無いか。
AKBの選挙のために、投票権のついたCDをファンがたくさん買い込むことは知っている。自分に対するサポートがカネでやりとりされていることを知っているから、彼女たちが「感謝」したくなるのもわかる。でも、好きなアーティストのCDやグッズを購入してアーティストの活動を支えることは、AKBファンだけではない。ファンとは、そもそもそういうものではないか。
会社説明会に至っては、説明しているおっさんたちは仕事だからやっているだけだ。
本当の「感謝」なんて、おっさんになって過去を振り返り、しみじみ湧き出るものだ。若者はそんなことを振り返らず、もっとおおらかに自由に、今の自分を楽しんでアピールして欲しい。「感謝」を連ねる姿に私は痛々しさすら感じる。