しんと静まり返った教室に、子供たちが問題を解く鉛筆の音だけが響く。ここは東京駅にほど近い、とあるオフィスビルの一室。最終在籍生徒の実に8割以上が開成、麻布、筑駒、桜蔭といった難関中学に合格するという「宮本算数教室」である。
主宰の宮本哲也氏(54)は、『算数と国語を同時に伸ばす方法』(小学館)など、多くのパズル本や教育本を執筆している知る人ぞ知る伝説の講師。その指導法は正に「型破り」という言葉がぴったりな、独特のものだ。
入塾申し込みは先着順、授業は週末の1日だけで、2時間半ぶっ通し。トイレは自由。何より宮本氏は生徒に一切“教えない”のである。
「4年間通っている生徒とも会話は全くしません。必要ないんです。今日のように緊張感の高い空気の中で頭を使っていれば、賢くならないわけがないんですから」(宮本氏)
生徒たちは、ひたすら宮本氏が作った問題を解く。解けたら静かに挙手。宮本氏は生徒のノートを見て、正解だったら「マル」、誤答だったら「ボツ」という。それだけだ。
問題は1日10問。一番デキのいい生徒が飽きないペースでだんだん難しくなっていくため、中にはぼんやりしたり、机に突っ伏したり、消しゴムを噛んだりといった生徒の姿も……。それでも何もいわない。
「授業中の生徒とは真剣勝負。説明して賢くなるんなら教えます。でもそうじゃない。解けなくても考え続けるから賢くなる。分からなくても頭を使っていれば、それでいいんです」(宮本氏)
そんな宮本氏は、経歴も型破りだ。大阪の高校を1年で中退。その後、独学で大検を取得し早稲田大学第一文学部へ入学した。卒業後は大手進学塾を経て、1993年、横浜に「宮本算数教室」を立ち上げ、2009年に現在の場所に移動。来年からは、なんとニューヨーク・マンハッタンに教室を移すという。
「英語はできないんですが」と宮本氏は笑うが、会話ゼロの授業なら、確かにアメリカでもやれそうだ。7月10日には新刊『算数と国語を同時に伸ばすパズル』(小学館)も刊行予定で、ますます活躍の場は広がっている。
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2014年7月11日号