夏の飲み物といえば近年はフローズン系が話題だが、実際には麦茶を多く飲んでいるのではないだろうか。ネット掲示板「2ちゃんねる」で、暑くなると毎年「婆ちゃんが麦茶の量産体制に入った」というタイトルのスレッドが必ず立つように、麦茶には地味なイメージが強い。ところが、印象と異なり麦茶は何十年も生産量が増え続け、今年も前年比110~120%を生産している隠れたヒット商品でもある。
全国麦茶工業協同組合の満留幸男専務理事は、昨夏の麦茶生産量が予想より伸びなかったため不安を感じていた。ところが、いつもなら消費が激減する秋から冬にかけて予想を上回る生産量が続き、春先も好調を維持。ゴールデンウィークの気温上昇と同時に生産量が増加し、今年度は前年比110%は確実だろうと見込んでいる。
「何十年も微増を繰り返してきた麦茶ですが、平成24年度の生産量が4万7500トンだったのに対し、平成25年は4万8900トンと予想を下回る増加量でした。とうとう麦茶も飽きられてしまったのかと不安でしたが、今年度は春先から好調です。6月中旬から雨が多く気温が下がったため心配していましたが、台風が過ぎてから暑い日が続いていますので、今年度は前年比110%で5万トンを超えそうです」(前出・満留さん)
古くは平安時代にさかのぼることができると言われる麦茶が、庶民に広く飲まれるようになったのは江戸時代から。夏の夜は若い女性が売り子をする「麦湯屋」の屋台があらわれ、ともす明かりは明治のころまで東京の夏の風物詩だったという。
屋台で買って飲んでいた麦湯が各家庭で夏の常備飲料となったのは、冷蔵庫が家庭に普及したことがきっかけだった。1965年に普及率が5割超、1971年に9割以上の家が冷蔵庫を持ったことで、真夏でも簡単に麦茶を冷やせる環境が整った。
もうひとつ、麦茶が家庭の飲み物になったきっかけは、ティーバッグが開発され普及したことによる。ティーバッグの麦茶そのものは1965年から存在していたが、普及には十年ほどかかった。そして1980年にハウス食品が大手メーカーとして初めて麦茶に参入すると、水に入れるだけで作れる水出しタイプのティーバッグが定着した。今ではスーパーマーケットや量販店で販売される麦茶の多くがティーバッグタイプだ。