ウクライナ東部でのマレーシア機墜落から1か月あまり。欧米側、露側から対極の情報が発信され、情勢把握は困難にある。一体、何が起きているのか。元外務省主任分析官・佐藤優氏が絡まり合った糸を一つ一つ解きほぐし、ウクライナ問題の現況を解説する。
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7月17日午後4時20分(日本時間午後10時20分)頃、ウクライナ東部のドネツク州でマレーシア航空MH17便(機種はボーイング777)が連絡を絶ち、墜落した。
中立的な立場から墜落の原因を調査しているICAO(国際民間航空機関)からの正式発表はなされていないが、これまで報道された情報を総合すると、ドネツク州の一部を実効支配している親露派武装集団が、ウクライナ政府軍の軍用機と誤認してマレーシア航空機を地対空ミサイルで撃墜したことはほぼ間違いない。
本件に関して、米国はNSA(国家安全保障局)によるシギント(通信傍受など電磁波、信号などを用いたインテリジェンス活動)で、地対空ミサイルの発射地点、親露派武装集団関係者の電話連絡やメールでの通信に関する情報を持っている。ロシアのシギント能力は、米国に比べるとはるかに劣る。
ただしロシアの国益上重要なウクライナ東部に精力を傾注しているので、マレーシア航空機についてはNSAと同レベルのシギント情報を持っていると筆者は見ている。
さらにロシアは、この地域のヒュミント(人間によるインテリジェンス活動)においては、米国をしのぐ情報を持っている。ロシアも米国も、自らが持つ情報をそのまま開示するようなことはしない。それぞれの国が自らに都合が良い部分を開示し、都合の悪い部分を隠している。さらにこれに稚拙な情報捏造を行うウクライナが絡んでいるので、ただでさえ複雑な話が一層複雑になっている。
ロシアのプーチン大統領は正確な情報を踏まえた上で親露派が撃墜したと認識している。墜落当日の夜、モスクワ郊外のノボ・オゴリョボの大統領別荘で行われた経済関係会合の冒頭で、プーチン大統領は、参加者に1分間の黙祷を求めた後、「あの地が平和だったならばこのような悲劇は起きなかったことを指摘する。