現在、中国の北京政府は様々なルートで香港をターゲットにした秘密工作を行なっている。そうした北京政府の手法を知り尽くしているのが、チベット亡命政権のキャルサン・ギャルツェン議員だ。彼はインドに脱出するまで、中国政府の役人として対チベット人の秘密工作に携わっていた。
「私は工作員が収集した、ダライ・ラマ法王を中心とするインド・ダラムサラのチベット亡命政権の高官や高僧の動静情報を中国語に翻訳したり、生まれ故郷の甘孜(カンゼ)チベット族自治州など四川省内の18か所のチベット族居住区の高僧や寺院の動きを探るなどの仕事をしていました」
ギャルツェン氏は現在、亡命政権の議会である亡命チベット代表者議会(定員46人)の議員を務めている。15年前に中国を脱出しインドに亡命するまで、チベット人を対象とした秘密工作に従事していた。
中国の四川省で生まれ育った同氏は高校卒業後、漢族(中国人)中心の四川省甘孜チベット族自治州政治協商会議(政協)に入る。政協職員は地方公務員で、主な仕事は少数民族と漢族の協調工作だ。
政協では当初、チベット族やチベット仏教関係の会議や、省幹部と僧侶の通訳、チベット語の資料の中国語への翻訳をしていた。その2年後には政協の上部機関である中国共産党統一戦線部の地元支部に配属。ここでも担当はチベット問題で、より政治性が高い党の会議や党幹部と高僧の通訳、北京からの出張幹部の通訳も任された。