作家歴50年を超える筒井康隆氏の著作から、新刊として入手不可能な作品を中心にまとめた「筒井康隆コレクション」の刊行が始まった。その第1巻『筒井康隆コレクション1 48億の妄想』(出版芸術社、日下三蔵・編)出版にあわせトークイベント「Live Wire300回記念『日本SFの幼年期を語ろう』」が11月23日に新宿文化センターで行われた。イベント席上で筒井氏は、処女長編『48億の妄想』を「予言的な作品。傑作だね」と振り返った。
「監視カメラがそこらじゅうにあり、メディアに取り上げられれば誰でもタレントになるなど、50年前に未来について書いたことのうち、現実になっていないことのほうが少ないね。韓国との領有権をめぐる争いが戦争に発展するなど、30代になってすぐの作品だが、久しぶりに読み返して自分で驚かされた」
1965年12月発表の同作は、竹島の領有権をめぐる問題が浮上した4年前にもひそかに評判になっていた。韓国との領有権問題による争いが描かれているからだ。しかし、古書でしか入手できない作品だったため、古くから知る一部の人たちによる話題にとどまっていた。今回のコレクション刊行によって、ようやく手に入りやすくなった。
描かれている作中の世界では、人々はテレビに取り上げられるため常に演じて生活している。カメラがいたるところにあり、政治家や俳優など有名人は私室にもとりつけられ生中継も可能だ。漁業権をめぐり日韓関係が険悪なのを利用して、武装した漁船による争いを放送する企画が立ち上がり、海へ乗り出し衝突して物語は終盤のクライマックスを迎える。日常的にスマホで私生活を撮影して公開し、メディアに出演した素人が全国的な人気者になり、日韓関係が緊張している現在の日本を思い浮かべずにいられない。
この日はコレクション第1巻だけでなく、ジュブナイルの未収録作品を集めた『細菌人間』と『座敷ぼっこ』も会場で販売された。トークショー参加者は150人だったが、150冊以上の書籍が購入される盛況ぶりだった。前半のトークが終わった休憩時間に『細菌人間』を購入した30代の男性は、定価で買えるチャンスは二度とないはずだからと満足げに語った。
「会場ロビーで書籍が並べられているのを見て迷っていたのですが、サインと落款入りの『細菌人間』は初めて販売する、と筒井先生が話されたので、買うことに決めました。まだ読んだことがない短編が収録されていますし、お得な買い物だと思います。コレクションの1も買っているので予想外の出費と荷物になりましたが、満足です」