人間関係をギスギスさせる要因のひとつとなるのが、知人同士のカネの貸し借りだ。もちろんお金を借りる側は、貸してくれる側に対して感謝の気持ちを持つだろうが、お金を貸す側はどんな心境になるのか。ネットニュース編集者・中川淳一郎氏は、過去にトータルで1840万円のカネを人に貸して、戻ってきたのは1020万円だったという。新刊『縁の切り方~絆と孤独を考える~』(小学館新書)を上梓したばかりの中川氏が、自身の体験をもとに、借金が生み出す人間関係のゆらぎについて解説する。
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普段の仲が良い故に、なんとしても助けたいと思う気持ちに頼ってくる(つけこんでくる)のが借金の正体である。そして、奇妙なことに助けてやる側が助けることを躊躇すると、途端に自分が人でなしなのではと思ってしまうものなのだ。返済を催促することも人でなしの行為だと思ってしまう。
カネを貸している期間、たとえば1人1万円の焼き肉を普段から仕事をしてもらっている学生5人にご馳走したとしよう。けっこうな散財ではあるが、こちらが払わざるを得ない。
すると、「あの時貸した100万円、まだ返ってきていないけど、あのカネがあったら、この学生どもにもっと気持ちよく奢ってあげられたんだろうな。何せそれでも95万円残っているし……。もしかしたら100万円返ってこないかもしれないから、これから彼らにご馳走する時は、予算5000円の鍋料理くらいにするかな……」なんてみみっちいことを考えてしまう。スーパーで買い物をしていて「30%引き」の刺身を選ぼうか迷っている時なども、「あの100万円があれば、ここで悩むことはないのに……」と借金が頭から離れない。
カネが返ってくるまでの間、それまでは親友だった人間に対して疑心暗鬼の心を抱くようになる。SNSで彼が「寿司食べた!」なんて書いていたら「その分の1万円でいいから、サッサと返せ」なんて思う。借りている側としても、返していない限り、私には会いづらくなる。そして、少しの贅沢であっても、SNSに書くことは憚られるし、自身がレジャーに行ったことを、同行者には口止めするようになる。
カネの貸し借りが発生すると、互いの関係はギクシャクするようになる。それは、返済されるまで続き、踏み倒した場合は間違いなく関係が終わる。ただし、評判が落ちるのは借りた側だけであり、貸した側の評判は「お人よしなバカ」程度の扱いは受けるかもしれないが、落ちることはない。友人同士のカネの貸し借りだから利子を取るわけでもないため、カネを貸す側にとってこれくらいしか慰みはない。