9月下旬、大阪市内のとあるイベントスペースで、100社を超える業務用食品製造業者がブースを出す見本市が開かれていた。
中でも一際賑わっていたのが、「おせち料理食材」を扱う業務用食品製造会社のブースだった。ある百貨店の食品部門バイヤーは「一番の売れ筋は3万円台」と語るが、そんな「豪華おせち」にも、真空パック詰めの冷凍食材がふんだんに使われているのだ。業務用食品製造業者の営業担当が匿名を条件にこう話す。
「おせちに関しては、百貨店や料亭、割烹料理屋、ホテル、旅館まで幅広く取引している。納入の仕方は様々で、うちで重詰めまでして納品することもあれば、真空パック詰めの食材だけ納入して取引先で詰め込むケースもある」
市場拡大を続ける宅配豪華おせちは主力商品になっていて、年間スケジュールも綿密に立てられている。
「新年を迎えるとすぐに、翌年のおせちメニューの検討を始めます。製品が決まると、新作発表会や見本市を経て、得意先の感触を調べたうえで、夏の終わり頃から工場で本格的に大量製造を始める。得意先と相談しながら、10月には注文個数が固まる」(同前)
つまり記者が潜入した9月末の見本市は発注期限ギリギリのタイミング。どうりで活発な商談が交わされていたわけだ。華やかなおせち商戦の裏側では、そうした食品業者が「有名店の味」をせっせと大量製造しているというわけである。
本誌が入手した冷凍おせち食材の卸売り業者の内部資料には、定番メニューの納入単価が明記されている。
たとえば、「かずのこ松前漬け1kg 1750円」「紅白なます1kg 1150円」「ぶり照り焼き16切れ 900円」「真だら子うま煮1kg 1880円」などとあり、「黒豆」は2リットル入り(1kg瓶)が1300円で見積もられている。