ライフ

「カンガルーケア」と「完全母乳」で赤ちゃんが危ない【6】

 本連載では国が推奨する「危険なお産」に強く警鐘を鳴らしてきた。久保田史郎医師はカンガルーケアや行き過ぎた完全母乳という新生児管理が引き起こす「低血糖症」や「重症黄疸」が近年の発達障害児の増加に影響しているのではないかと問題提起する。カンガルーケアと完全母乳を発達障害に結びつけるのは暴論だという反論もあるが、多くの論文がその関係を示唆あるいは警告しているにもかかわらず、調査しようとすらしないことこそ非科学的ではないか。

■病院によって発達障害発生率が違う

 発達障害児が急増していることは誰も否定できない事実だ。

 本連載の第1回では、障害児の発生数について全国でも数少ない詳細な統計を取っている福岡市のデータから、発達障害児(未就学児)の診断件数が25年前の22倍(約20人に1人)に急増しており、同市では支援施設が足りずに増設している実態を報じた。診断の精度や基準が変わったことを差し引いても、ここ数年~10数年の増加は明らかだ。

 発達障害児の増加は世界的な傾向でもある。米国疾病対策センター(CDC)が2011~2012年に行なった全米調査によると、4歳から17歳までの子供のうち発達障害の「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」と診断された人数が約640万人(約10人に1人)にのぼり、とくに「高校生男子」に限ると5人に1人という高い割合だったと発表している。

 発達障害には「自閉症」、知的発達の遅れを伴わない「高機能自閉症」、読む書く計算するなどの1つが苦手な「学習障害」、集中力を欠き多動性や衝動性が見られる「注意欠陥・多動性障害」などの分類がある。日本では従来の障害児支援ではカバーされていなかったことから2005年に発達障害者支援法が施行され、早期発見や支援の制度ができた。しかし、肝心な発達障害児の推移についての全国調査は行なわれていない。

 子供の発達障害には個人差が大きく、注意力や行動、読み書きの得手不得手に違いがあっても「障害扱いするのはおかしい」という意見もあり、学校教育の場で通常学級から排除する傾向には批判が強い。

 そうした発達障害児についての教育行政上の対応についての議論はこの連載ではひとまず措きたい。むしろ新たな視点から発達障害の原因解明が進めば、防ぐ方法があるのではないかという問題提起に注目しているからだ。

 発達障害はいずれの症状も「中枢神経系(脳)に何らかの要因による機能不全があると推定される」(文部科学省の報告書)とされており、原因については遺伝的要因や環境要因などの面から医学的に多くの研究がなされているが、まだ解明されていない。現在では「遺伝的要因説」をとる研究者が主流だが、周産期医療の視点からの研究は世界的にもほとんどない。

 取材班は、2万人の赤ちゃんをとりあげ、新生児の体温と栄養の研究で世界的にも注目されている久保田史郎・医師(医学博士。久保田産婦人科麻酔科医院院長)の臨床データをもとに、カンガルーケアと完全母乳という日本で急速に普及した新生児管理法が赤ちゃんの低血糖や低体温、重症黄疸などのリスクを高め、危険にさらしていることに警鐘を鳴らしてきた。

 久保田氏は、発達障害児の増加には、「遺伝的要因」だけではなく、新生児の低血糖症や低体温、重症黄疸などが関係しているのではないかと問題提起し、周産期医療の視点からもっと調査・研究がなされるべきだと指摘する。

「発達障害は脳の機能不全によるものと推定されています。また、生まれたばかりの赤ちゃんの低血糖症や重症黄疸などが脳に障害を与えることも医学的によく知られています。そして日本で広く普及しているカンガルーケアや行き過ぎた完全母乳は低血糖や重症黄疸のリスクを高める。そうしたことを考え合わせると、発達障害児の増加と周産期のケアとの関連を疑って研究することが行政や医学界の責務ではないでしょうか」

 事実、福岡市の発達障害児のデータでは、厚労省が1993年に完全母乳を、2007年にカンガルーケアを推奨した後に診断件数が急増している。また、2008年に同市こども病院の小児神経科医を中心とするチームが増加の原因を探るために発達障害児のカルテをデータベース化して分析した調査では、生まれた病院(個人病院)によって発達障害児の発生率が5倍も違うというデータが示されている。

 こうなると「遺伝的要因」だけでは説明が難しい。同時に、周産期医療との関連が強く疑われるのである。

関連キーワード

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン