ライフ

仏新聞襲撃事件と「表現の自由」についてコラムニストが論考

 フランスの週刊新聞「シャルリー・エブド」襲撃事件は、犯人の2人を射殺して終わった。「表現の自由を守れ」と、現地で開かれた大集会を見てコラムニストのオバタカズユキ氏は違和感を感じたという。

 * * *
 フランスのパリでおきた風刺週刊紙の事務所襲撃事件。ヒトゴトではないと緊張した。私もライターとして、さまざまな対象を揶揄してきたからだ。

 単行本のデビュー作は、「田原総一朗からビートたけしまで、もの言う文化人」201人にツッコミを入れた『言論の自由』(1993年刊)というお笑い本。その後も、有名人のみならず、「会社」や「大学」や諸団体のたたずまいや主義主張をとりあげて、おもしろおかしく表現をし、読者の笑いを誘う仕事をたくさんこなしてきた。

 しかし、こうしたツッコミ芸は、さじ加減を少し間違えただけで、単なる誹謗中傷行為にズレる。いや、どんなにうまく表現しても、ツッコまれた側の人々の気分を害する可能性はなくならない。だから、この手の仕事をするときは、相手側から倍返しをされて当然、という腹の括りが必要で、同時に、そこまでして自分はその対象を笑いたいのか、といった自問自答をしないわけにはいかない。

 今回の襲撃事件の報があって、私はすぐに、その週刊紙がどんな風刺をしてきたのか知ろうとした。グーグルで「charlie hebdo」を画像検索すると、同紙の表紙を中心に無数の風刺画が出てくる。「muhammad」をアンド検索すれば、画面のものはイスラム教に対する風刺画にだいたい絞られる。

 当然のことながら風刺画に添えられた文字のほとんどはフランス語で、残念ながら私には読解力がないため、これはと思った絵についてはできれば日本語、なければ英語で訳しているサイトを探した。そんなこんなを一晩中やっていた。

 そうしてみて改めて思ったのは、笑いは容易に他人と共有できない、という現実だ。風刺週刊紙の風刺画をじっと見ても、どれひとつとしてクスリと来るものがない。「風刺」は「笑い飛ばす」ことだけが目的ではなく、<社会制度に見られる構造的な欠陥や、高官の言動にうかがわれる人間性のいやしさなどを、露骨に非難せず、やんわりと大所高所から批評すること>(『新明解国語辞典第五版』)だとしても、「これが批評ねえ……」という違和感ばかりが募ってしまう。

 ネットで拾った限りだが、『シャルリー・エブド』紙の風刺画は、あまりにも露骨な非難に偏り、ちっとも「やんわり」なんかしていないのだ。さじ加減がどうのこうのといった次元ではなく、バケツでどばどば毒の原液をぶちまけている感じ。人によってその感じ方は違うだろうから、個々でご覧になってほしいが、風刺というより侮蔑のオンパレードだと思った。たいていは、自分の中のNGラインを超えていた。

 ところが、事件当日の7日だけでも、フランス国内で計10万人規模の抗議集会が開かれた。「表現の自由を守れ!」という叫びがあがり、「私たちは皆シャルリーだ!」と書かれたプラカードも方々で掲げられていたという。

 それはずいぶんと支持者の多い風刺週刊紙なのだなあ、と思えば、発行部数は約3万部とのこと。愛読者は決して多くないようだ。でも、襲撃事件を抗議する人々は、「テロ反対!」だけではなく、「表現の自由を守れ!」を前面におしだす。私の感覚からしたら、『シャルリー・エブド』紙の絵は、風刺と侮蔑の線引きとしてNGなものばかりだが、少なくとも3万人のフランスの人々はそう思わないようだ。その感覚ってどんなものなのか?

 日本のマスメディアで『シャルリー・エブド』紙に相当するものを私は知らない。が、<政治家、宗教から軍隊に至るまであらゆる権力を風刺することを目的としており、そのイデオロギーの根は左翼的で無神論的だ>(ウォール・ストリート・ジャーナル)という解説からすると、月刊誌『噂の真相』がわりと近かったといえるかもしれない。

関連記事

トピックス

中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
米国からエルサルバドルに送還されたベネズエラのギャング組織のメンバーら(AFP PHOTO / EL SALVADOR'S PRESIDENCY PRESS OFFICE)
“世界最恐の刑務所”に移送された“後ろ手拘束・丸刈り”の凶悪ギャング「刑務所を制圧しプールやナイトクラブを設営」した荒くれ者たち《エルサルバドル大統領の強権的な治安対策》
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
中居正広氏とフジテレビ社屋(時事通信フォト)
【被害女性Aさん フジ問題で独占告白】「理不尽な思いをしている方がたくさん…」彼女はいま何を思い、何を求めるのか
週刊ポスト
食道がんであることを公表した石橋貴明、元妻の鈴木保奈美は沈黙を貫いている(左/Instagramより)
《食道がん公表のとんねるず・石橋貴明(63)》社長と所属女優として沈黙貫く元妻の鈴木保奈美との距離感、長女との確執乗り越え…「初孫抱いて見せていた笑顔」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン