過激派「イスラム国」による湯川遥菜さんと後藤健二さんの人質事件。犯行グループは当初、2人の解放条件として身代金2億ドル(約235億円)を要求し、実際に支払うべきか否かは政府のみならず国民の間でも大きな議論となった。
アメリカやイギリスは、「身代金は絶対に払わない」という姿勢を貫いている。身代金を払えば、テロの効果を認め、相手を利することになるので、「交渉に応じない」のがテロ対策の王道とされる。
しかし、現実には米英もまったく交渉しないわけではない。在米ジャーナリストの高濱賛氏はこう言う。
「米政府は身代金の支払いには応じないが、人質解放のために『特殊部隊による奪還作戦』と『捕虜交換』は行なう。
昨年夏、イスラム国に処刑された記者を救出するため特殊部隊を派遣していたが失敗した。捕虜交換では、同じく昨年、アフガニスタンでタリバンに拘束された米陸軍のボウ・バーグダール軍曹とタリバン幹部5人の交換に応じたことがある」
一方、フランスやスペインなどは、イスラム国に対し表向き米英に同調するものの、水面下では交渉し身代金を払って人質を解放させている。
米紙ニューヨークタイムズ(2014年10月26日付)によると、イスラム国に支払われた身代金の人質一人当たりの相場は約200万ユーロ(約2億8000万円)。
ドイツの週刊誌「FOCUS」も、2014年4月に解放されたフランス人4人の身代金として、仏政府は1300万ユーロ(約18億2000万円)を支払ったと報じた。仏政府は否定しているが、対話だけで人質を解放するような相手ではないのは明らかだ。
このケースでは、「トルコの諜報員」を通じて身代金を払ったとするNATOの高官の話が報じられているが、過去には別の過激派に対し、人道支援を行なう民間団体などを経由して支払われたケースもあるようだ。
※SAPIO2015年3月号